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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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569 傀儡の勇者

「確かに一度負けた身だからいつ死んでもいいとは思ってるよ。タカハシ家としての役目も終えたつもりだった」

 ジリジリとジャスの剣が近付いてくる。前髪が触れるぐらい近い。さすがは勇者だね。本気になると私が押し込まれるほど力強いなんて。

「ならば命に(うれ)いなどないだろう。抵抗せずに終わりを受け入れろ」

 これで悪い方向に吹っ切れていなかったら歓迎物だったんだけどな。どうして破滅の底なし沼に迷いなく進んじゃってるかな。

「私たちタカハシ家の第一の役目はマリーの暗殺する事。今ソコにマリーがいるのに、死んでなんていられない。私が死ぬのは、マリーを抹消(まっしょう)した後だ!」

 気迫で押し返し、ジャスを後方へ吹き飛ばす。

 すかさず水を空へ飛ばそうとするけど、ジャスは即座に態勢を立て直して剣を伸ばしてきた。

 だから速いって。遠距離攻撃を撃つ猶予(ゆうよ)ぐらいよこしてよ。

「水魔法は撃たせない。槍雨(そうう)も撃たせない。マリーには、指一本触れさせない」

 疾風(しっぷう)のような突きが迫り来る。身体を(ひね)りながら紙一重で(かわ)すと、ジャスは走り抜けた。おかしな言い回しだけど、ジャスとマリーに挟まれる立ち位置になる。

 コレは好機なの。それとも逆。マリーを(さえぎ)る壁はなくなってるけど、ジャスに注意を払いながら後方のマリーを仕留めるのも(きび)しい気がする。

 ジャスは一度走り抜けた後だというのに、瞬時に反転(はんてん)して斬りかかってきた。トライデントを振り回しながら抗戦(こうせん)する。

 ダメだ。マリーに視線を向ける事も許してくれない。それどころかタイマン張ってる状態で押されてる。

「負けないでジャス様。わたくし、アナタが傷つくところなんて見たくありませんわ」

 後方からの黄色い声援。アイツ、こんな時にヌケヌケと。

 マリーの(はっ)する一言一言がいちいち(かん)に障る。

「大丈夫だよマリー。ボクが必ずマリーを守るから。決して魔王には屈しないからっ!」

 水を()た魚のように活性化(かっせいか)するジャス。やめてよ。あんなやつの応援で強くなんてならないでよ。こんな立ち直り方、酷いよ。

 泣きそうになる気持ちを歯ぎしりで抑えながら猛攻(もうこう)を受け止めるんだけど、少しずつジャスの剣撃(けんげき)が肌を(かす)めるようになってきた。

 やっぱりマリーだけは刺し違えてでも殺さないと。ジャスの正義感が、勇者の立場が、マリーの都合いいように使われちゃう。

 そうなったらイッコクが破滅に向かう。お父さんの目指した平穏が潰されちゃう。そんな最悪なバッドエンドはダメ。私たちが目指してるのは、最善のバッドエンドなんだから。

「もうやめなさいよ。アクアを殺す気ぃ!」

 声を上げながらエリスは、(たま)らずといった様子でジャスの足下に矢を放った。

 ジャスはエリスの方へ跳び退くと、なんの躊躇(ためら)いもなく振り向いた。

「そうか、エリスも敵かっ!」

「だめエリス、逃げてっ!」

 マリーを仕留める絶好のチャンスだったかもしれない。けどエリスは見殺しにできない。ジャスを止めようと駆けながらトライデントを伸ばす。

 遠い。届かない。

「死ね、エリス」

「えっ、あがっ……」

 ジャスの剣がエリスのお腹を貫いた。背中から突き出る剣先。茶色い瞳が驚きで見開かれ、口から赤が吹き出す。

「エリスっ!」

「安心しろアクア。お前も一緒に送ってやる」

 衝撃のあまり、エリスへ無防備に手を伸ばしてしまった。ジャスは剣を引き抜きながら、弧を描くように振り返りながら下段から剣を振り上げた。

「あっ」

 右脇腹から左肩に向かって灼熱の線が走る。

 しまっ、斬られっ。

 切り口から吹き出る赤い血を認識しながら、エリスと同じタイミングで地面へ倒れた。

 痛いのに、痛すぎて感覚がなくなっていく。ダメ、私、まだ……。

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