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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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568 手のひら

 驚き、青ざめ、半歩足を退(しりぞ)いて両手で口を塞ぐマリー。悲鳴を上げる寸前の態勢。

 薄汚い金切り声が発せられるよりも速く、私はトライデントで華奢な身体を、その胸を、心臓を貫かんと突き伸ばした。

 キンと墓地に金属同士のぶつかる音が響く。

 クっ、反応された。

 トライデントの矛先は剣に阻まれる。ジャスの身体がマリーと私の間に滑り込んでいた。

 予備動作のない瞬足(しゅんそく)の突きだった。とっさに反応するのは不可能なはず。なのに防がれたって事は、事前に私が攻撃するって予測していたんだ。

「ジャスどいてっ! そいつ殺せないっ!」

「落ち着くんだ。もうマリーを殺す必要なんてどこにもない。だってきみは、正義に目覚めてボクたちの旅についてきたんじゃないか」

 ナニイッテルノ?

 いつ私は正義マン、あっ違う。正義ウーマンなったの。一回だってそんな事言った覚えない。

 そもそもエリスが気に入って、どういう風に人生を歩んでくのか見たくなっただけ。ついでにジャス達と私たちタカハシ家との戦いの行程を目に焼き付けたくなっただけ。

 そりゃ途中からワイズやクミン、ジャスの事も好きにはなったけども。

「悪の道から足を洗ったアクアに、もうマリーを殺す必要はない。せっかく奇跡が起きたんだ。怖い思いなんてせずに、平和な日常で幸せな暮らしを送ってもらったっていいじゃないか」

「ジャス様」

 マリーは慕うようにジャスの背中にピっと身体を当てながら、私に向かって黒い笑みを飛ばしてきた。

 こいつぅ。

 手のひらだ。ジャスはもう踊らされちゃってる。冗談じゃない、私までその小さな手中で踊らされて(たま)るか。

 いったん跳び退いてから腰を低くして構える。多少の手傷は必要資金。無傷じゃジャスを傷つけずにマリーを仕留めるなんて不可能。

 ロンギング襲撃の時はタカハシ家一丸(いちがん)になってマリーを仕留めたっけ。けど今は一人。私にはちょっと荷が重いかな。けどやる。()るっ。

「こんな悪夢は終わらせなきゃ。三途(さんず)の川を泳いで戻ってきたなら、何度だって私が地獄へ送り(かえ)してやる。ソイツが死んでなきゃお父さんの希望も、チェル様の未来も(つい)えちゃうっ!」

「チェル、様?」

 後方からエリスの神妙(しんみょう)な呟きが聞こえた気がした。けどそんな事に構っていられない。四本のうねる水流を、ジャスを避けながらマリーへ放つ。と同時に私も突進する。

 ジャスを物理的(ぶつりてき)()い止めている内に、マリーを仕留める。どんな狂った奇跡が起きようとも、マリーの身体は貧弱なままのはず。一発でも当たれば終わりだ。

「そうか、残念だアクア」

 ジャスは謝りながら土を()り上げ、砂で目潰(めつぶ)しをしてきた。

「うっ、くっ」

 突進を中断し、腕で砂を防ぐ。戦い方が小賢(こざか)しい。

 私が止まっている間にジャスは、マリーを片手で抱えながら跳び退いた。

 四本のうねる水流が宙で踊りながらぶつかり合い、水飛沫(みずしぶき)を上げながら霧散(むさん)する。

「やっぱり、アクアも討伐すべきタカハシ家だったって事か。ならば望み通り、ボクの手で引導を渡してやるっ!」

 マリーを遠くに避難させたジャスは、剣を振り上げながら高速で私に迫ってくる。

(はや)っ!」

 トライデントの()を突き出す事で上段斬りを受け止める。

 腕に響く重い衝撃。

 ジャスは力任せに、身体全体を使って押し込んでくる。殺意を()き出した表情が、ギリギリと眼前に迫ってきた。

「アクアっ!」

 切羽詰(せっぱつ)まったエリスの声。そうだった。思い出したよ。勇者の力が強大だって事を。

 私は奥歯を()み締めながら、力一杯踏ん張ったよ。

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