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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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567 波紋

 朝ジャスがワイズとクミンを引き連れて、ヴァリーとの戦いへ出かけていった。

 私はその間、エリスやロンギングの精鋭(せいえい)達と一緒にハード・ウォールの復興作業に(いそし)しんだ。

 エリスが戦いに参加できないグチと、重労働をやらされる文句を()らしていたね。確かに楽しいものじゃないけども、一番戦力になるのもエリスだから。励ましながら働いたよ。

 私だって瓦礫(がれき)粉砕(ふんさい)しては撤去(てっきょ)してを延々(えんえん)とがんばったんだから。

 どんな事だって没頭(ぼっとう)できればあっという間に時間は過ぎちゃう。

 不安なんて(いだ)いてる余裕ないくらい、目の前には仕事が溢れてるんだから。だから、湧き上がってくるイヤな予感なんて、感じてる暇なんてない。

 ないんだけど、どうしても、もしもが頭に(よぎ)るんだよね。

 胸騒ぎが止まらない。想像出来る最悪が実現しそう。ヴァリーが勝って、ジャス達が全滅する最悪が。

お願いだよヴァリー。身を(わきま)えてよ。

 気がつけば空はオレンジに染まっていた。

 私は一人でなんとなく墓地の中に入り、ヴァリーのキャッスル・プリンセスが建っていよう方向を眺める。

 傷だらけでもいい。せめてジャスだけは帰ってきてほしいと。

「アクア。なにも墓場なんかでジャス達を待たなくていいじゃない。しかも一人で」

「エリス。なんか、ジっと待っていられなくってね。墓地(ここ)なら一人になれると思ったから」

 一人静かに過ごせたら、心の水面で揺れる不安の波紋(はもん)を落ち着かせられるんじゃないかって感じたから。

「そりゃ大人数で賑わうような場所じゃないでしょうけど、何もない黄昏(たそがれ)の墓場で一人(たたず)むのはやめてほしいな。消え入りそうで怖いから」

 悲しそうなエリスの微笑み。心配させちゃってたんだな。

「ありがとエリス。大好きだよ」

「はいはい。アタシも好きだから唐突(とうとう)にそんな事言うんじゃないわよ。恥ずかしいったらありゃしないわ。ん?」

 エリスがツンと照れながら視線を背けると、何かに気付いて声を上げる。視線を追ってみると、地面にポツンと一本だけ草が()えていた。

「植物っていうのは(たく)しいわね。こんな場所に生えるだなんて。前墓地の入った時には気付かなかったわ」

「ホントだね」

 クスクスと同意しながら疑問に思う。この草、どこかで見た事あるような。

 首を傾げていたら、複数の足音が近付いてきた。振り向くと、返り血に汚れつつも(すす)けた笑顔のジャスがいた。

 そしてジャスの影に隠れるように、もう一人女性が一緒にいる。誰だろう。クミンじゃなさそうだけど。

「ジャス。ワイズとクミンはどうしたのよ」

 エリスが疑問を投げかけると、ジャスは沈痛な面持ちで首を横に振った。

 そっか。二人とも戦死しちゃったんだ。

「ヴァリーの卑劣(ひれつ)な罠にはまってしまい、高い崖の上から落とされてしまったよ。落ちて生きていられるような高さではなかった」

「そんな」

 エリスが目を見開いて後退(あとずさ)る。ショックだよね。二人ともいい人だったし、私も嫌いじゃなかったよ。

「多大な犠牲を払ってしまったけれども、無事に魔王ヴァリーを倒す事ができた。奇跡的に蘇った、彼女のおかげで」

 ジャスが半身を下げて、後ろにいた女性の全貌(ぜんぼう)を見せた。

 瞬間、一石を投じられた水面のように、動揺という波紋が広がった。いや石なんてもんじゃない。もはや岩。全力で岩を放り投げ入れられたような衝撃が身体中を駆け巡る。

 この戦い、ジャスさえ生きていれば誰が死んで誰が生きててもどうでもよかった。最悪なのは、ジャスが死んでしまう事だって思ってたから。

 やめてよ。なんで想定していた最悪を超える最悪が起きちゃってるのっ!

 コイツだけはダメ。マリーだけは、何がなんでも殺しとかないと。

 私は姿を現したマリーへと肉薄(にくはく)しながら、トライデントを精製(せいせい)して突き出した。

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