566 主催者と踊らされる者
勇者と姫が寄り添いながらー、ハードウォールへと帰っていくー。
愛の囁きや足音が聞こえなくなってー、たっぷりと時間をおくー。
吹き荒ぶ風の音以外はなーんにも聞こえなーい。静寂の中でついにー、我慢できずに吹き出しちゃったよー。
「ぷっ、キャハハハハっ。甘ー。甘々すぎて死んだふりするのに苦労したじゃなーい!」
俯せからクルリと回ってー、仰向けになってお腹を抱えるよー。
「ダメっ、息ができない。マリーちゃんってばヴァリーちゃんを笑い殺す気ー。こんなんじゃ殺されちゃうよー。キャハハハっ」
笑い死んでもいいくらーい、お腹を捩ってヒーヒーしちゃーう。
収まるまでかなり時間がかかっちゃったー。
「あー、マリーちゃんってば演技派だねー。景気良くヴァリーちゃんの背中を滅多刺しにするもんだからー、私怨でも込めてんじゃないかと思っちゃったよー」
まー、実際に恨みがこもってたんだろうけどもー。
「段取り通りに事が進んでるしー、マリーちゃんのお茶目な行動には目を瞑ってあげよー。ヴァリーちゃんってば寛大だねー」
おもしろくなってきたー。ただ勇者を殺すだけなら楽勝なんだけどー、せっかくならいじめ抜いて絶望のドン底まで突き落としたいよねー。
「ヴァリーちゃん自慢のキャッスル・プリンセスを崩してまで死を演出したんだもーん、用意した舞台で満足するまで踊ってもらわなくっちゃー」
ドロドロ血みどろの演劇を期待してるからねー。勇者と戦っておいて生き延びてるナマイキなアクアにもー、しっかりと痛い目みてもらわなくっちゃー。
「戦いが終わったらー、新しいキャッスル・プリンセスを建てなくっちゃー。今度は全力でファンシー方面に振り切っちゃおっかなー」
この分だとー、いざって時に用意しといた切り札を使わなくて済みそー。
「さてとー、そろそろヴァリーちゃんも会場に向かわなくっちゃねー。あんまりのんびりしてたらー、一番いいところ見逃しちゃうもーん」
勇者一行にはもれなく全滅してもらわないとー。仲間二人程度じゃ満足できなーい。目指すはプリチーな完全勝利なんだからー。
「さーマリーちゃーん。クライマックスを盛り上げられるかはアナタ次第だよー。盛大な演技とエンディングを期待してるからねー。キャハハっ」
つまらない現実なんかにー、ヴァリーちゃんは決して屈しないんだからー。何でも思い通りにー、世の中を書き換えちゃうぞー。




