表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
566/738

565 最愛の誓い

 初めてかもしれない。心の底から安堵(あんど)して泣いたのは。

 失ってしまったはずの最愛の人を抱き締めて、なんの外聞(がいぶん)も気にせずひたすらに。

 こんな情けない男だというのに、マリーは優しく受け入れてくれた。

 たくさんたくさん泣いて、ようやく泣き()んだのはヴァリーの魔王城が完全に崩壊してからだった。

「ごめん、マリー。きみの気持ちも考えずに、はしたないマネをしてしまって」

 落ち着いてからボクは、なんて大胆な事をしでかしてしまったんだと自責した。夫婦だった頃でさえ、感情を爆発させた事はなかったのに。気恥ずかしさもあって、視線をつい泳がしてしまう。

 すると返り血に染まった細い手を、ボクの頬にそっと()えた。泳がせた視線がマリーへと誘導される。

「いいのですジャス様。わたくし、(たましい)になってなおジャス様の事を見守っていましたわ。とてもツラい事の連続で、あなたが(こわ)れてしまわないか気が気でなりませんでした。少しでも(いや)やせたのなら、こんなに嬉しい事はありませんわ」

 碧の瞳を(うる)ませながらも、まっすぐにボクを見据えてくれる。

 もうダメだ。二度と手放せない。手放してなるものか。

「マリー。ボクにはまだ戦うべき敵が残っている。タカハシ家はとても強く、これからも(けわ)しい戦いになるだろう」

(ぞん)じ上げております」

「だから、マリーにはいったんロンギングに戻ってもらいたい。無論ボクたちが全力で守りながら送っていく。だから、ボクの帰りを待っていてくれないか」

 心配で堪らない事を真摯(しんし)に伝えるも、マリーは怯えるように震えて顔を横に振った。

「マリー?」

「イヤですわ。わたくし、ジャス様のお側にいたいのです。足手まといになってしまうかも知れませんが、一時も離れたくありません。もう、ジャス様がお側にいて下さらないと、不安で仕方がないのです」

 マリーがか弱い女の子であると、初めて認識させられる。気丈で心強く、民を導く頼もしい姫がボクの中のマリーだった。

 一度殺されているんだ。不安に決まっている。それにボクがいないロンギングが再び襲われたら、いったい誰がマリーを守れよう。

 ボクの目の届く場所で守るのが、より確実じゃないか。でも。

「マリーの気持ちは痛いほどわかる。けど今、ボクが一緒に旅している仲間には」

「わたくしを殺した、悪しき娘がいるのでしょう」

 青くウェーブのかかった髪に、無邪気な笑顔の少女が思い浮かぶ。人畜(じんちく)無害(むがい)そうで優しくもあると同時に、人の命をどこまでも軽く見るバケモノ。

「大丈夫でしてよ。だって改心して正義の心に目覚めたのだから、ジャス様と共に旅をしているのでしょう。でしたら、わたくしの事もきっと受け入れて下さいますわ」

 清廉(せいれん)に、正義を信じてマリーが言い切った。

 本当にそうだろうか。アクアは異常なほどマリーに敵愾心(てきがいしん)、いや殺意を抱いていた。説得できるイメージがわかないし、できる事ならマリーの存在を隠し通しておきたい。

「けどもしもの事があるかもしれません。その時は、ジャス様がわたくしを守って下さいますか?」

 怯えた小動物のように、マリーが懇願(こんがん)する。

 不安がないはずがない。一度殺された相手、怖くて堪らないだろう。それでも正面から向き合おうとマリーが言っている。

 (おぞ)ましいほどの恐怖に立ち向かう姿は、勇者のボクよりも(けが)れなく立派だ。

 守ろう。何が起ころうとも、誰が相手になろうとも。

「必ず、マリーを守り通してみせる。行こう、一緒に。ボクの仲間達にマリーを受け入れてもらいに」

「えぇ、ジャス様。どこまでもついて行きますわ」

 ボクたちは互いに手を取り合って、崩壊したハード・ウォールへと足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ