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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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562 エスコート

 倒れている青年を発見した瞬間、ワイズとクミンがなんの躊躇(ためら)いもなく駆け寄った。

 即座に罠だと警戒して動かなかったボクは、心がひ弱になってしまったのだろうか。見た目も雰囲気も、魔物のソレではないというのに。

「おいっ。大丈夫かお前。しっかりしろ」

 ワイズが青年の身体を揺さぶると、うっと反応を示す。重たそうな(まぶた)を開いてピントを合わせると、悲鳴を上げて後退(あとずさ)りし出した。

「わぁぁぁあっ。くるなっ。人間の振りしてオレを殺す気だろっ」

 怯えた声を上げ、ハード・ウォールで初めて会った男と似たような反応をする。この必死でリアルな反応は、生きた人間にしか出せない。少なくとも、演技っぽさは微塵(みじん)も感じられない。

「落ち着きな。それ以上後ろへ下がると落ちるよ」

「へっ? うわぁぁぁあっ」

 クミンに忠告された青年は、後ろが崖っぷちである事を認識。恐怖を声に出して身体を固める。

「いいから冷静になってよく聞け。オレ達はれっきとした人間で、勇者一行だ。(ほとん)(ほろ)びちまってから言うのもなんだけどよぉ、ハード・ウォールを救いに来た」

「とにかくワシらが近付くまで動くんじゃないよ。お前は今、気が動転してて危ないからね」

 魔王城の門付近で佇んでしまっているボクは、ワイズとクミンが救出をしている姿を見て己を恥じる。

 人に手を差し伸べる事に怖じ気づいている自分が、どこか(みじ)めで仕方なくなってくる。

 青年を助けようとワイズとクミンが崖の方に寄って行くと、急に地面から腐臭(ふしゅう)が湧き上がってきた。

「なっ!」

「まさかこのタイミングかよ」

「してやられたね」

 地面から無数のゾンビとスケルトンが湧き出てきた。

 ボクとワイズ達を遮断する壁のような密集(みっしゅう)と、ワイズ達をCの字に取り囲んだ群衆(ぐんしゅう)。穴のある部分は単純に崖で、湧き出る為の地面がないだけだ。

 焦りながら剣を抜き、切っ先をアンデットの群れへ向ける。ワイズとクミンは恐怖に絶叫をしている青年を守るように、二人隣り合わせで武器を構えている。

「キャハハハっ。引っかかった引っかかったー。ダサー」

 油断なくアンデットの群れを見渡していると、人を小馬鹿にする高い声が頭上から降り注いだ。

 ハッと驚いて見上げる。魔王城の外壁に刺さった棒に腰掛けた魔王ヴァリーが、壁に背をもたれて足を揺らしながら見下していた。

 クセのかかった赤髪をツインテールに束ねていて、攻撃的な吊り目をオレンジ色に輝かせている。赤い豪奢なドレスに身を包んでいるのは、白くて貧相な身体だ。

「魔王ヴァリー」

「いいねー。その驚愕(きょうがく)したお顔ー。ウケるー。ヴァリーちゃんのキャッスル・プリンセスはどうだったー。自慢のお城だったからー、特別に見学させてあげたんだよー。冥土(めいど)土産(みやげ)ってやつー」

 何がそんなにもおかしいのか、絶え間なく高い声で笑うヴァリー。どこまでも見下した態度を崩さない。

「なかなかに豪華で凄かったぜ。庶民のオレは気後れしちまって居心地悪かったけどな」

「広くて優雅だったじゃないかい。ドワーフのワシはもっとこぢんまりした空間の方が好きだけどね」

 ワイズとクミンが皮肉を返すが、(はな)も引っかけないで舐めきった態度を続ける。

「随分と用意周到(よういしゅうとう)じゃないか。人質までとってボクたちを罠にかけるなんて。よっぽど臆病とみた」

 状況に対しての挑発をし、少しでも激高してくれればと願う。冷静を欠いてくれれば、状況をひっくり返すきっかけを作れるかもしれない。

 けどヴァリーは逆に上機嫌となり、腹の底からひたすら笑う。肺の空気がなくなるんじゃないかって程に。

「ヴァリーちゃんはねー、人質なんて一人もとってないんだよー。だってソレー、もう生きてないもーん」

「なっ、まさか」

「おいっ、ウソだろ」

 ヴァリーが宣言した瞬間、水色の髪の青年がワイズとクミンの腕を握った。

 バカなっ。彼は紛れもなく生きた人間だった。ボクも、ワイズもクミンも見分けができていたはず。

「ヴァリーちゃんが手間をかけて作った特製アンデットだもーん。擬態(ぎたい)性能(せいのう)()る事ながらー、膂力(りょりょく)だって凄いんだもーん」

 そして青年はグチャグチャに表情を崩し、壊れたように笑いながら崖へ力強く跳んだ。

「っ!」

 両手で掴んだワイズとクミンを、強引に連れていくように。非力なワイズどころか、剛力なクミンまでもが宙に足を浮かせる。

「最初で最後の仕事だよー。地獄へ向かうついでにー、その二人をエスコートしてよー。役目でしょー。キャハハハハっ!」

 驚愕に目を見開いた二人が、崖底へと姿を消していった。

「あぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 甲高い笑い声が耳に響く中、ボクは絶叫を上げるしかできなかった。

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