556 視界に広がるやるべき事
今回は不抜けたジャスを叩き直す為に、ワイズとクミンと三人で魔王ヴァリーと戦うからアタシはお留守番なのよね。
アタシとアクアと距離を置く為に、三人で仲良く墓場まで行っちゃうし。まっ、今は居心地悪いから好都合でもあるんだけど。
教会の外に出て、アクアやロンギングの精鋭達と一緒にメチャクチャになったハード・ウォールを眺める。
「アタシ達をこんな場所にお留守番させるなんて、いくらジャスを立ち直らせる為だと言っても納得できないわ。もっと戦って、強くなりたいのに」
アクアと肩を並べられるぐらいには、強くなりたい。あわよくば支えになりたい。旅をする前より強くなっているとは思うけれど、上を見ると果てがないから焦れったく感じちゃう。
「大丈夫。エリスは充分強いよ。けっこう頼りにしてるもん」
何の気もなしに笑顔を返してくれるアクア。お世辞とかじゃないのは伝わってくるけど、まだまだ物足りない。ちょっとワガママかしら。
「ありがと。けどジャス達が魔王ヴァリーと戦っている間は退屈になりそう。こんな場所じゃ特訓しかやる事なさそうだもの」
「何言ってるのエリス。やる事なんて、目の前にいっぱい広がってるよ」
「へ?」
間抜けな声を漏らしながら、広がっている光景を確認する。
破壊されてデコボコになった地面や、崩壊して山積みになった瓦礫たち。
そりゃ崩壊する前はさぞ立派な街並みが広がっていて、出店や娯楽なんかがたくさんあって、退屈してる暇がないくらい楽しい事で溢れてたんだろうけども。
「いつまでもこんな環境で暮らしていけないでしょ。まずは瓦礫を撤去して生活スペース作って、食料も不足してろうだから畑なんかも作らないと」
「は、えっ。ちょっとアクア」
急にめんどくさそうな単語を羅列し始めたけど、まさか慈善事業に手を染めたりしないでしょうね。元魔王で島国をメチャクチャにしていた元凶が。
「戦うだけが勇者の仕事じゃないよ。むしろただ戦うより復興の方が何倍も難しくて苦労するんだから。ヴァリーってば加減せずに暴れたみたいだから、後片付けが大変だよ」
「いやいやアクア。どれだけ片付けなきゃいけないと思ってるのよ。仮にアタシ達が手伝っても焼け石に水ってやつよ」
腕を振って全体を指差しながら叫ぶ。
「いいじゃん。ジャスが戦ってる間は手持ち無沙汰なんだし。退屈してるよりはマシだよ。少しでもここの人たちの役に立たないと」
やだアクア。笑顔が怖いんだけど。
「ヴァリーを倒した後の事も考えなくっちゃ。なんたって数少ない生存者なんだから」
「もしかして、勘違いさせてしまいましたか」
アクアが半強制的にアタシを説得しようとしていると、シスターが割って入ってきたわ。助け船ってこの事かしら。
「シスターさん。勘違いって、どこが?」
「ハード・ウォールも広いですからね。少数とは言え、ワタシたちみたいに集まって暮らしている生き残りは点々といるんですよ。距離が遠い挙げ句に、道も塞がれていて移動手段も乏しいのでなかなか会えませんが」
この教会以外にもまだ生存者が残ってたんだ。まっ、この広いハード・ウォールの中でここにしか生存者がいないのも確かにおかしいかもしれないわね。
「それに、最近はちょっと食糧問題に少し希望が見えているのです。近い場所に見た事もない果実の木を発見したのです。そんなに深く探索していませんが、探せばもっとあるかもしれません」
「こんな状況で食料を見つけられるなんて凄いね。果物が成る木かぁ」
アクアが明るく喜ぶと、シスターは頬笑みを返したわ。都合のいい偶然もあるものなのね。
「なら安心できるように、ちゃっちゃと魔王ヴァリーを倒してもらわなくっちゃ。一番弱いんだから、キッチリ倒してもらわないと」
任せるしかないもどかしさを文句にして吐き出すと、アクアは唸りながら眉を困ったように顰めた。
「その事なんだけど、あんまり一番弱いって情報を頼りにしない方がいいよ」
懸念材料があるみたいで、アクアは注意を促しだしたわ。




