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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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554 身勝手な振る舞い

「そして多大な犠牲を払って潜り込んだアンデットを討伐しきる事には、ハード・ウォール内に無数の死体が転がっていました」

「ちょっと待てよシスター。たしかに多大な被害は出してっけど、それだとなんとか危機を乗り越えてねぇか」

 シスターの話が一段落ついたところで、ワイズが疑問をぶつける。確かに目を(つむ)りたくなるような悲劇だったのだろうけども、崩壊にまで辿り着いていない。

「この潜り込まれたアンデットの被害は、序章(じょしょう)にすぎません」

「序章って、かなり被害があったように聞こえたんだけど」

 エリスが驚愕に顔を引き()らせながら、言葉をこぼす。

「魔王ヴァリーは混乱に乗じ、街中へ侵入していたのです。そして世にも(おぞ)ましい能力(ちから)(もち)い、無数に転がっていた死体を新たなアンデットへと変えました」

 地獄絵図(じごくえず)が脳裏に浮かぶ。疲弊(ひへい)しつつやっとの事で災厄(さいやく)を退けたところに、更なる数の魔物が生まれ出る。しかもそのアンデットの元は、街の人からみて友人や家族たち。

 魔王ヴァリーには人の心がないのか。

「新たに生まれたアンデットは、最初に送り込まれたアンデットほど強くはなかったようです。が押し潰すほどの圧をもった数は充分な脅威でした」

「なんだい、その言い回しは。イヤな予感しかしないじゃないかい」

 クミンの表情が険しくなる。まだ何かあるというのか。

「魔王ヴァリーは人の身体を(もてあそ)ぶように、新たに生まれたアンデット複数体をまとめて練り上げ、巨大で禍々(まがまが)しいアンデットを造り上げたのです」

「うわぁ。ヴァリー容赦ないなぁ」

 アクアでさえ引くほどの傍若無人(ぼうじゃくぶじん)。そして然も平然とやってのける理不尽さ。

「デタラメに組み上げられたソレはもはや人の形すらしていません。そして身体を一振りするだけで壊されていく建物。ハード・ウォールは一日で落ちました」

 なんって壮絶な悲劇だ。むしろ、生存者が残っていたのが不思議なぐらいだ。

「って事はよぉ、シスター達やこの教会が残ってたのは奇跡っていうか、不幸中の幸いだったんだな」

 ボクたちが辿り着いた結論を、ワイズが代弁してくれた。そんな言葉で片付けちゃいけない事もわかっているけれども。

 しかし、シスター目を閉じると首を横に振る。

「いえ、最初こそ奇跡的に生き延びたのだと思っていましたが、今はそう思いません」

 深刻(しんこく)そうに告げるシスターに戸惑いを隠せない。だったら、なんで生き延びているのだと。

「そっか。ヴァリーはじっくりいたぶる方向に切り替えたんだ。全滅させちゃったら、遊べないから」

 アクアの気づきは突拍子がなく、侵略者側の視点だった。(ある)いは家族だからこそ、性格を理解しているのかもしれない。

「彼女の言うとおり、あの魔王の気まぐれで奇跡的に生かされているに過ぎないでしょう。あの日から、生き残ったワタシたちは一人ずつじっくりと姿を消しているのですから」

 どこまでも身勝手な振る舞いに、奥底に沈めた正義感が(うず)きだす。

 ボクの心の内にあるのは勇者としての使命か、或いは身勝手な独りよがりの正義感なのか。手を伸ばすのが怖い。

「そして昨日、水色の髪をした青年がこの教会から姿を消しました。勇者様にお願いがあります。もしも彼を見つけたら、そのまま見捨てて下さい」

「何っ!」

 危機にさらされた同居者を切り捨てる願いに、鋭い視線を向けてしまった。

「例え動いていたとしても、死んでいる可能性が高いのです。魔王ヴァリーのアンデットは一見で気づけないほど精巧(せいこう)なのです」

 過去の悲劇がシスター達に猜疑心(さいぎしん)を産み付けていた。いや、もはや(うたが)いですらないのかもしれない。

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