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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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553 無警戒の壁

 シスターは泣き崩れた男性に寄り添って落ち着かせると、ボクたちによろしければついてきますかと問いかけてきた。

 ハード・ウォール崩壊の経緯や、その他諸々(もろもろ)の情報を知りたいので断る理由がない。

 一度落ち着いた男性が声を上げて反対したが、シスターが説得すると渋々(しぶしぶ)引き下がってくれた。

 馬車が通れない都合で門の外に待機させていたロンギングの精鋭達を、街中へ招き入れる。

 ワイズの土魔法(ちからわざ)で崩壊した外壁に埋もれた土を盛り上げ、一時的にトンネルを造る。全員が街に入ったのを確認してから、再びトンネルを崩した。

 気休め程度かもしれないけど、崩れた外壁が魔物の進行を阻害できる可能性がある。間違っても出入り口をそのままにはしておけない。

 荒れた地面を整えながら、できるだけ道幅の広い経路でシスターに案内していただく。

 ワイズが仕事量の多さにグチを漏らしていたので申し訳なかった。街中の足場は崩し直さなくても大丈夫だろう。臨時的だからあまり丈夫じゃないだろうけれども。

 四半時(しはんとき)ほど歩くと、ボロい教会に辿り着く。窓ガラスは割れ、壁は魔物に攻め込まれたように傷だらけだけれども、それでも立派に立っていた。雨くらいは凌げるだろう。

 教会の中には十数人の男女がいて、ボクたちを物陰から隠れ見ている。視線は鋭く、警戒心と殺意がない交ぜになっていた。

 よく見ると幼い子供も二人いた。

 どう見ても、歓迎はされていない。

 シスターに案内されるまま教会に入る。八方から視線を浴びながら、シスターの話を聞いた。

 魔王ヴァリーはハード・ウォール北にある崖の先に巨大で(きら)びやかな魔王城を建てると、舐めきったような態度で宣戦布告をしたらしい。

 最初は世間知らずな小娘を笑い飛ばしながら、軽い気持ちで冒険者に討伐依頼を出した。

 こんなイタズラ、すぐに片がつくだろうと高を括っていた。

 仮に討伐隊が敗北したとしても、難攻不落の外壁がある。堅い守りを突破する事など不可能だ。

 実際に攻めてきたアンデットの軍団は外壁に遮られ、蹴散(けち)らすのは造作もなかった。

 そんなある日、討伐に出ていた冒険者達がボロボロになって戻ってきた。ケガを負いつつ、命からがら逃げてきた姿は情けないの一言だった。

 しかし(しばら)く敗北が続きケガ人の数が増えると、冒険者ギルドはさすがに魔王ヴァリーを甘く見すぎていたと反省。外壁は越えられないけれども、正面切っての白兵戦はハード・ウォール側に分が悪いと。

 故にハード・ウォールは外壁の防御を強化して、籠城(ろうじょう)を開始した。

 守っている間に勇者に助けを求め、到着したら攻めに切り替える。

 悪い手ではないように感じられたし、崩壊する(きざ)しは感じられない。けれど、魔王ヴァリーはこの時点で策を仕込み終えていた。

 とある日の明け方。敗走してケガを負った冒険者が狂ったように住民を虐殺(ぎゃくさつ)し始める。

 突然の出来事に大混乱が起こり、立派な装備で身を固めた衛兵達も慌てふためくだけで命を落としていく。

 強固な外壁に(たよ)った戦術は洗練(せんれん)されていたが、それ以外の戦いは(おろ)かだったらしい。

 戦火はあっという間に街中に広がり、悲劇が連鎖していく。ようやく高ランクの冒険者が装備を調えて、狂った冒険者を一人斬った。

 致命傷の一撃。がそんな事かまいもせずに狂った冒険者は動き出す。意表を突いた一撃は、油断していた高ランク冒険者に致命傷を与えた。

 その瞬間にカラクリが見える。目の前にいる狂った冒険者は、既に死者であった。

 最初に討伐に出た時点で全滅し、何らかの細工(さいく)でアンデットにされていた。それも巧妙(こうみょう)に人間を擬態(ぎたい)した状態で。

 人間の姿をしていたから、外壁は無警戒に敵を通してしまっていた。

 アクアをもってして一番非道と言わしめる魔王ヴァリー。シスターの話を聞いていて、その片鱗(へんりん)に身体が震えた。

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