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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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552 弱った心が産む拒絶

 カラコロと音を立てて転がってきた石ころの先で、三十半ばぐらいの男性がボクたちを覗き見ていた。表情は怯えと驚きが混ざったように青ざめている。

 生存者だ。まだ生き残った人がいたんだ。

 生きていた。ただそれだけの喜びと安堵(あんど)が心を軽くさせる。まずは挨拶と状況確認をと足を一歩踏み出す。

「来るなっ! オレに近付いてくるんじゃねぇ!」

 錯乱(さくらん)したような男性の叫びで、進めた足が止まってしまう。

 強い拒絶だ、ムリもない。街が壊滅するほど酷い目に()っているんだ。ショックはボクたちじゃ計り知れないものだろう。

「大丈夫だ。ボクたちは敵じゃない。助けに来た」

「信じられるか。テメェらが人間だって証拠がどこにある。ハード・ウォールは見捨てられたんだ!」

 見捨てた。誰が? 勇者である、このボクが?

 動揺(どうよう)が身体を震えさせ、助けるべき人が怖くなる。手を差し伸べても、いいのだろうか。

「落ち着けジャス。そこのお前もだ! オレ達はハード・ウォールの救援にきた勇者一行だ。敵じゃねぇし立派な人間だ」

「私は違うけどね」

 ワイズが説得するように叫ぶと、アクアがぽつりと訂正を加えた。そしてエリスに口を塞がれる。

「救援? 何を救援するんだよ! もう守ってほしい街も、友人も、家族も、みんな壊れちまってんだよ。今更、今更遅すぎんだよ!」

 男性が腕を振って破壊され尽くした街全体を示す。失った物を突きつけるには充分な光景。助けに向かう順番を誤った結末が視界いっぱいに広がっている。

「あ、あぁ」

「肝心な時に助けてくれないくせに勇者ぶってんじゃねぇ! オレをとり殺すなら殺して見やがれバケモノ共!」

 悪意に満ちた言葉が鋭く突き刺さる。もしかしたらボクは、人の皮を(かぶ)ったバケモノなのか。

「落ち着きなジャス。ワシらはやれる事をやってきたんだよ。それに、後に回した方の被害がデカくなるのは、仕方がないじゃないかい。全部をいっぺんに助けられないんだから」

 クミンが軽く背中を叩きながら(なだ)めてくれるけれども、湧き出てきた罪悪感は心に充満していくばかりだ。

「聞く耳持たないわね。第一、どう見たらアタシ達がバケモノに見えるのよ」

 クミンが嘆息を吐き、呆れながら問いかける。

「うるせぇ! いいからさっさと出て行けよ! もう希望に(すが)るのも、望みが打ち砕かれる思いもしたくねぇんだよぉぉぉおっ!」

 男性は(うずくま)り、地面を叩きながら叫ぶ。ボクの選択が、彼をこうまで追い詰めてしまったんだ。

「これは、何があったのですか」

 後ろめたさに打ちひしがれていると、瓦礫の隙間から戸惑う女性の声が割って入ってきた。

 黒い修道服を身に纏っているシスターで、(たたず)まいから貫禄を感じさせる。四十代ぐらいだろうか。

 シスターはボクたちを怯えた表情で眺めてから、泣き叫ぶ男性へと近付いて寄り添った。

 無意識に張られた心の壁が、弱々しいのに厚い。内へ踏み込んでも、大丈夫なんだろうか。

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