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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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551蹂躙の跡

「ウソ、だろ」

 分厚く堅牢(けんろう)だった外壁は無残にも崩れ去り、もはや大きな瓦礫(がれき)としてちらほら地面に突き刺さっている。

 強固な門などもはや探す必要もないくらいに、いろんな箇所に街への出入り口が開通していた。

 いや訂正がある。外壁の先に、街なんてもう存在していない。

 亀裂(きれつ)した外壁の隙間を通って内部に入ると、見るも無惨(むざん)な光景が広がっていた。舗装されていた広い道路はひび割れて凹凸。歩くのにも一苦労だ。馬車なんてとても通れない。

 並んでいたはずの家屋は崩壊(ほうかい)したり焼け尽きたりしている。奇跡的に無傷な家もあったが、だからなんだという話だ。(いた)る所に虐殺(ぎゃくさつ)の跡が残っているのだから。

「うっ、酷い臭い」

 久しぶりに顔を見たエリスが、鼻を手で(おお)いながら顔を(しか)める。

「トムヤンクンとケーキとシュールストレミングをミックスしたらこんな臭いになるのかな」

 アクアも苦い顔をしながら呟いた。よくわからない単語だったが、絶対に混ぜたら危険な組み合わせだろう。

「ここはホントにあの栄えていたハード・ウォールなのかい。見る影もないじゃないかい」

 魔王アスモデウスが顕現(けんげん)していた時代でさえ魔王軍の進撃を抑え、平和を享受(きょうじゅ)していた街。(うっす)らとした記憶の面影は、目の前の景色と殆ど一致していない。崩れた建物の数だけが、人がたくさん住んでいた過去を物語っている。

「なんっていうか、さすがはヴァリーって感じかな。手心をまったく感じさせないところとか、ある意味尊敬しちゃうよ」

 称賛(しょうさん)するセリフを呆れた声色で漏らす。

「おいアクア。ホントにヴァリーは最弱なのかよ。この惨状(さんじょう)、とても弱者の所業(しょぎょう)じゃねぇぜ」

「弱いけど、一番非道とも伝えといたよ。手段を選ばないし、加虐心(かぎゃくしん)も強いから一番侵略行為に適正してる」

 ワイズが舌打ちをして視線を逸らす。気のせいか奥歯を噛んでいるようにも見える。

「とりあえず、人を探そう。もしかしたら、生き残ってるかもしれない」

「こんな惨状で、生き残ってる人なんているわけないでしょ」

「それでもだよ、エリス。ボクだって、可能性が低い事ぐらいはわかっているんだ」

 遠くから強い口調で叫ぶエリスに、ボクは視線を提げながら小さく返す。

「生存者、いるといいけどね。いなかったとしても身体を休める場所を探さないとだよ。こんな状態で放置されてるんだ。いろいろと片付けなきゃ、おかしいね」

 クミンがエリスを宥め、辺りを見渡しながら説得しようとして何かに気付く。

「何がだよクミン。もうおかしいもへったくれもねぇだろぉが」

「死体がない。ひとつも」

「あ? あっ」

 言われてみれば確かに異様な光景だ。血溜まりが枯れた跡や争いの破壊痕は無数にあっても、肝心の死体がひとつもない。

「どういう事。まさか生き残った誰かだ供養(くよう)した、とか」

「だったらいいけど、ヴァリーの侵略地だからなぁ。一人残らず手駒にされてる可能性も充分あるんだよね。アンデットを使役するネクロマンサーみたいなもんだから」

 エリスが驚きながら生存者の可能性をほのめかし、アクアが最悪のケースで一蹴する。

 もしかしたら魔王ヴァリー手によって地中に無数のアンデットが配置され、既に囲まれているかもしれない。

 そう思った瞬間、地面が冷たく感じた。

 警戒していると、カラカラと物音が聞こえてきた。

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