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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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549 渦巻く不安

「うん、今日の訓練はこれくらいにしよっか。少し休憩したらまた進まないといけないからね」

 息を上げて地面に腰をつけているロンギングの精鋭さん達を見回しながら、持っていたトライデントを水に戻して地面にバラ撒く。

 疲労混じりのありがとうございましたを聞きながら、見学していたクミンとワイズを眺める。

 イヤな相談が聞こえちゃったな。内緒話だったらもうちょっと遠くでしてほしかったよ。イヤな空気が渦巻いちゃってるな。早く穏やかになってくれたらいいけど。

「お疲れ様、アクア」

「あっ、エリスおかえり。走り込みご苦労様」

 顔を少し上気させてて、呼吸が少し早い。汗ばんでもいるから結構全力で身体作りしてたね。

「時間があいている時に少しでも鍛えとかないと。タカハシ家はみんな強いからね。あれ、ワイズにクミンじゃない」

 充実した笑顔のエリスだったけど、遠くに二人を見かけて半眼になる。

「あの二人も大変よね。あんな情けなくなったジャスの面倒を見てるだなんて」

「ダメだよエリス。ジャスだって人間なんだから。現実に打ちのめされちゃう事だってあるよ」

 軽く(なだ)めながら思う。最近ジャスに対する当たりが強くなっちゃったな。

 最初は勇者って絶対の肩書きと強さに憧れてたんだろうけどね。最近はちょっと情けないとこばかりだったから、幻滅(げんめつ)しちゃったのかも。

「そんなの関係ないわ。アクアと勝手に張り合って自滅して、勇者として恥ずかしくないのかしら。しかもヴァリーとの戦いでアタシ達をハブにするし」

 わぁ。文句が出てくる出てくる。相当不満を溜めちゃってるね。

 苦笑いでどうにか取り(つくろ)おうとしたんだけど、エリスは暴走列車のように文句を吐き出し続ける。

「馬車に引きこもって(ほとん)ど出てこないし、アタシ達の前には姿すら現さない。鍛錬サボってて戦いができると思ってるのかしら。タカハシ家との戦い、アクアに押し付けるんじゃないわよホント」

「エリス」

 そっか。半分は私の事を心配して怒ってくれてるんだね。

 プンスカしているエリスに、正面からギュっと抱き締める。

「ちょっ、アクア」

「もぉ、エリスのそういうところ大好きだよ。根は優しいもんね」

「いいから離れなさいって。アタシ今汗だくなんだから」

 思いっきり手に力を入れて引き剥がされちゃった。いけずなんだから。ふふっ。

「もっと抱き締めていたかったんだけどな。まいいや。それより、ジャスの事信じてあげよう。勇者だもん。立ち直ってくれるよ」

「どうだか。あの状態から立ち直れるなんて思えないけど」

「それでも、だよ。ジャスが勇者してタカハシ家を壊滅してくれないと、お父さんが魔王になった意味がなくなっちゃうもん」

 お父さんの願いは、勇者が魔王を倒した先にあるんだもん。こんなところで、ジャスが潰れちゃダメなんだから。

「アクア。もぉ、しらないんだから。それよりハード・ウォールってどんな所よ。幼い頃に偵察に行ったんでしょ」

 気まずくなっちゃたから話を切り替えたね。今はジャスへの文句を言わないだけで充分だよ。

「そうだね。おっきな街だったな。美味しいお店や、かわいい服屋さんがたくさんあって。道幅が広くて馬車で行き来したりもしたよ。ミュージアムや劇場もあったかな」

「聞いてるだけで賑やかそうな街ね」

「せっかくお留守番なんだし、街に着いたら二人でお出かけしようよ。城塞都市だけあって堅牢でご立派な外壁に守られてたから、きっとまだ街は無事だよ」

 ヴァリーもキツい侵略地を任されちゃったよね。私じゃきっと、外壁を破れないよ。

「そうね。ハブられた腹いせに、遊び回ってやるわ」

 エリスが無邪気に笑ってくれたから、私も嬉しくなって笑顔を返したよ。

 早く辿り着かないかな。ハードウォール。

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