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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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548 生きる覚悟と死ぬ覚悟

 砂漠を抜けてから随分と過ごしやすくなったね。みんなすっかり陽に焼けちまったけど、コレで少しずつ治っていくだろうさ。

 平地に出てからロンギングの精鋭達が活気よくていいね。毎日のようにアクアの訓練を受けているよ。

 (しぼ)られてはメキメキと育っていく姿を見るのは気分がいい。

 アクアも乗り気で応えているし、この場面だけ抜き取れば順調な旅だね。

 遠くから眺めていると、後ろから足音が近付いてきたよ、ワシの隣で、ワイズが止まって特訓を眺める。

「毎日鍛錬(たんれん)とは、精鋭達もご苦労なこったな」

「ワイズも参加してみたらどうだい。アクアなら(にぶ)った根性を叩き直してくれるよ」

「冗談よせって。魔法使いにゃツラすぎるぜ」

 軽くいなしてるけど、結構イヤみたいだね。まっ、ワシも本気で言ってるわけじゃないからいいけどね。

「ジャスとのお話しは終わったのかい」

「まぁな。あんま長居してもジャスが居心地悪く感じちまうだろぉかんな。焦りは禁物(きんもつ)ってな」

 ジャスの気の落ちようは見ていていたたまれないからね。あんなにズタボロになっている姿は、初めて見たよ。ああなって長いからもう見慣れちまったけども。

「にしても驚いたね」

「何がだ」

「ワイズがアクアの強さに嫉妬(しっと)している事にさ。案外、男気があるじゃないかい」

 アクアに対する言い方は暴言的だったけど、向上心があるのはいい事だよ。ちょっと見直したよ。

「おいおい、オレが手柄なんかにこだわるわけねぇだろ。あんなのは全部建前だよ。ジャスは今、自分の為に動く事ができねぇからな。オレが動く理由になってやっただけだ。案外人ってのは、頼られると腰を上げるもんだかんな」

 ワシが見直してやってたってのに、ワイズはニヤリと笑いやがったよ。してやったりって心の声が漏れ聞こえるようじゃないか。

 呆れを混ぜたジト目を返してやる。

「オレは別にな、ジャスが平和に暮らせるなら弱くったってかまわねぇんだ。ただジャスの隣に立つのに、力が必要だっただけなんだよ」

「なんだい。ワイズもジャスの為に重い腰を上げた口じゃないか」

「ほっとけ。それよりよ、クミンは死ぬ覚悟あっか?」

 からかってたら、急に真剣な雰囲気を醸し出してきたよ。イヤな事を()くね。

「ないね。生きて平和を(つか)み取る為に、ワシは戦ってるからね」

「正論だな。オレだって生きる覚悟で戦ってるさ。けどよ、三人で魔王ヴァリーに(かな)うと思うか」

 アクア(いわ)くフィジカルでは最弱らしいけども、タカハシ家の中でって前提がつくんだよね。どこまでアテになるかわかない挙げ句、隠し球があるような事も言っていたっけ。

「厳しいね。けどそういうシナリオを(えが)いたんだろう、ワイズは」

 問いかけにコクンと頷くワイズ。

「最悪オレ達二人を犠牲にして、ジャスの目を覚まさせる。仲間ならアクアとエリスが残ってるから、和解すれば充分に旅を続けられる」

 やれやれ、溜め息が出ちまうね。

「最悪だけれど、一番可能性の高いルートだね。いいさ、ワシもジャスには立ち直ってもらいたい、というより今のジャスを見ていられないからね。きっとエフィーだって同じ事を思っていたさ」

 死別してしまった仲間を思い描く。嫌みたらしくも同意してくれただろうさ。

(わり)ぃな。結局オレもバカだから、こんな手段しか思い浮かばんかった」

 謝りながら拳を突き出してくるワイズ。

 仕方ない。ワシがケツを拭いてやるよ。そう微笑みながら、拳を伸ばしてコツンと付き合わせたよ。

 ワシらは覚悟したからなジャス。いつまでも(うずくま)ってないでくれよ。


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