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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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547 期待を裏切った事と頼られる事

 焼け付くような暑さの日中と、凍てつくほどの寒さを持つ夜間。身体を壊しにかかる寒暖差の砂漠を、荷物で運ばれながら抜ける。

 どんな環境でも活気にあふれながら鍛錬に励むロンギングの精鋭達がボクの目には(まぶ)し過ぎて、カーテンがあるなら閉じてしまいたいほどだ。

 彼らの目からは今、ボクはどう映っているのだろう。

 タカハシ家討伐の旅を始めた頃は羨望の眼差しを集めていた。期待に応えられると信じていた。勇者だから。

 今のボクは、とてもみせられるものじゃない。

 馬車の壁の向こうから、活気のいい雄叫びが聞こえてくる。勇ましい戦士達の叫び。そして中心で受け止めるアクア。

 ロンギングの精鋭達の期待を、一心不乱に集めている。

 アクアが勇者の立ち位置に居る。本来、ボクがいなければいけない場所に。

 気性こそ優しいけれど、思考がデタラメで危ういアクア。一般人だって無差別にたくさん殺している。そんなモンスターが、勇者のように慕われている。ボクを差し置いて。

 いや、今のボクに割り込む権利なんてない。もういっそ、アクアが中心になってしまえばいいのではないか。

「よっと、相変わらず雰囲気暗いぜジャス」

 床を眺めながら考え込んでいると、ワイズの靴が視界に入ってきた。見上げると、いつもの気の置けない表情を装った顔をしている。

「ワイズ」

 ワイズはボクの隣に腰掛けると、視線を合わせずに話しかけてくる。

「せっかく馬車で旅してんだからよ、外の空気ぐらい吸ったらどうだ。ちったぁ気晴らしになんぜ」

「外に出て、ボクはどんな顔でみんなと接すればいい?」

 自分でも堕落している事を自覚している。居場所だっていつのまにかなくなってしまっていた。視線が怖い。

 ボクは誇張した事を言うだけで、全然実力がなかった期待外れの勇者だから。

「そんなみんな気にしてねぇと思うけどな。それより次の目的地は城塞都市ハード・ウォールだろ。堅牢(けんろう)な城壁に囲まれた、でっけぇ街だぜ」

「魔王アスモデウスを討伐する前に立ち寄った事があったね。あの時はジャスがハメを外しすぎてたっけ」

 とにかく警備態勢が整っていて、まさに鉄壁と呼べる防御を誇っていた。いくらタカハシ家が侵略したところで、早々に壊滅する事もないだろう。

「デカい街だけあって娯楽にもあふれてたからな。ジャスもパーっとハメ外そうぜ。んで、鋭気(せいき)(やしな)ってから、オレ達三人でヴァリーってヤツを打ちのめしてやろうぜ」

 人の悪い笑みを浮かべながら、ボクの方を見るワイズ。正直、乗り気じゃない。

「オレな、このままアクアにいいとことられ続けたくねぇんだ。パッと出の魔物混じりのヤツなんかに、オレが(おと)ってるのが許せねぇ」

 ワイズは急に真剣な表情をすると、言葉に険を込め出した。

「意外だね。ワイズは、悔しかったのか」

「オレの自己満足でしかねぇかもしんねえけど、付き合ってこれよジャス。ンでもって、オレ達が強いって証明した後で酒盛りがしてぇんだよ」

 ボクの肩に手を置いて、縋るように頼んでくる。自信はない。けど、ワイズが強く願っている。なら、少しでも期待に応えたい。

「わかったよ。倒そう、ボクたち三人でヴァリーを」

「ありがとよ。クミンも喜んでくれるぜ」

 笑いながらバンバンと、ボクの背中を叩いてきたよ。

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