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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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546 勇者とはいったい

 何もできなかった。

 魔王アスモデウスをも討伐した勇者の力を振るえば、どんな強敵にも必ず勝てると信じていた。

 力を示せば、仲間達はボクの考えを中心に動いてくれるとようになると思っていた。

 もう一度、誰も人が苦しまない、平和な世界を取り戻せると疑わなかった。

 結果は、魔王シャインに惨敗だった。善戦すらできずに、一方的に打ち払われた。そして事もあろうに、戦いにすら参加せず仲間達が戦う様をただ眺めている事しかできなかった。いや、しなかった。

 力のない勇者(ボク)に、存在価値はあるのか?

 鍛錬(たんれん)する意志も、平和に向けて進む気力も湧いてこない。

 気がついたら戦いが終わっていて、されるがままに運ばれて、気がつけば砂漠の女性達の町にいた。

 魔王シャインに(さら)われていた、不憫(ふびん)でならないはずの女性達。ボクの手で救うつもりだった。

 けど、必要なかった。自分でも現実から目を逸らしていた事には気づいていた。

 痛ましく攫われてしまった女性なんて、この砂漠には一人もいなかった事に。彼女たちは今、魔王シャインの訃報を受け入れながら、前向きに生きている。

 あのシャインが既に女性達に手を差し伸べていた。そして彼女たちは、シャインを失った。

 ボクは、何を倒そうとしていたんだ? 何を守ろうとしていたんだ?

 わからない。わからない。わからない。

 深い穴の底へ落ちた答えを、途方に暮れながら目を凝らして探しているようだ。

 見えもしないし答えなんてないのかもしれない捜し物に沈んでいたら、あたりが騒がしい事に気づいた。

 ただなんとなく気になって足を動かしたら、アクアが町を襲う砂漠の男共を蹂躙(じゅうりん)しているのが見えた。しかも、ハーフクラーケンの姿で。

 町を襲う悪人とは言え、無造作に殺しすぎるアクア。呆然としすぎていて丸腰の状態だったけれでも、人殺しを止めようと握りこぶしをギュっと作って、すぐに(ゆる)めた。

 アクアは相手が悪人とはいえ確かに殺している。人を。けど守ってもいる。

 ボクはどうだ。町の緊急事態だっていうのに、剣を持つ気概すら失っている。

 この無力な姿が勇者なのか?

 人間同士なら話し合う事ができる。助け合う事ができる。和解ができる。

 本当に、できるのか?

 結局アクアが事を納めるまで眺め続けてしまった。

 後から聞いてみたら、砂漠の女性達は男達が考えを改めるなら手を取り合ってもいいと言った。

 けど砂漠の男たちは、女性達の上に立つという誤った歴史を捨てきれずにいる。

 むしろシャインの保護下から解放されたのを機に、汚れた誇りを取り戻そうと躍起(やっき)にすらなっていた。

 手の取り合いようがない。

 色んな事の判断がつかないけど、ロンギングは砂漠との繋がりを交す事を決めた。男共は話にすらならなかったから。

 もうわからない。平和ってなんだ? 勇者ってなんだ? ボクは必要ないんじゃないか? アクアはひょっとして、正しいのか?

 もうわけがわからない。わけがわからないけども、残りのタカハシ家の悪行を見逃す事もできない。

 ボクはワイズとクミンに支えられつつ流されるまま、惰性に身を任せつつも旅を続ける。

 堅牢なる城塞都市、ハード・ウォールへ。

 なんだか、疲れたな。

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