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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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543 女はよくわからん

「ところで、グラスにはいないのかしら。(した)ってくれる女の子は?」

 私ばかりが一方的に(あき)れられるのも釈然(しゃくぜん)としないもの。この無骨な子にちょっとは反撃できないかしら。

 とはいえ己を鍛える事に特化した生き方をしてきたものね。この手の話題を吹っかけるだけ、私が愚かかしら。おや。

 鍛冶をしているはずのグラスの動きが中腰態勢のまま止まっていてね。言葉も発していないしひょっとして、ひょっとするのかしら。

「どうかして、グラス?」

「慕っているかどうかは知りませんが、妙に近付いてくる女に心当たりがありますね」

 あらあら、だいぶ遠回しな言い方ね。慣れない会話はしたくないかしら。

「意外とグラスも隅に置けなくてね。どこの誰かしら」

 グラスは止めていた身体を動かし、言葉を溜めてから諦めたように漏らしたわ。

「俺の侵略地プラサ・プレーヌにいる、元勇者の仲間です」

 想像よりも大物が釣れていてね。フォーレは知っているのかしら。少なくともコーイチは絶対知らないわね。

「元勇者の仲間がグラスに恋愛感情を抱いているのは確かななの?」

「知りませんよ。俺は妙に近付いてくると言っただけですから」

 ぶっきらぼうに言い捨てようとしているけど、脈があると感じ取ったから話題に上げたのでしょう。その言い草はなしにしてほしいわ。

「まぁそういう事にしておきましょう。それで、グラスは彼女に何をしたのかしら」

「何もしていないはずです。それに最初は間違いなく軽蔑(けいべつ)されていました。人間達に過重労働を強いているのを、俺に怖じけず文句を言ってきましたし」

 支配されている状況からして、彼女はグラスの実力を知っているはず。勇気があるというか、正義感が強いというか、どちらにしろかなり無謀でもあってね。

「さすがは元勇者の仲間といったところね。知らないうちにグラスが情けでもかけていたんじゃなくて」

「ないですね。(むし)ろ元勇者の仲間って(はく)がついている分、人質扱いして他の人間共に脅しをかけてましたし」

 それは屈辱(くつじょく)ね。元勇者の仲間ってカリスマ性は、一種のアイドルのような人気を誇ってしまう。率先して人民を守りたい立場のはずが、逆に利用されている。

「彼女からしたら憤慨(ふんがい)ものかしら。けど今は近寄ってくるのよね」

「最初あった刺々しさがいつの間にか緩和(かんわ)していましたし、最近はなぜか会話をするようにもなってきています。愉快な話は振ってないはずなのですが」

 溜め息交じりに剣の歪みを確認し、更に打ち続けるグラス。

「もっと女性の機微(きび)敏感(びんかん)になってはどうかしら」

「自分で言うのもアレですけど、俺もまだ七歳児ですからね。女なんてよくわかりませんよ。俺はチェル様ほどおばさんじゃありませんから」

「ふふっ、あははっ! グラスも言うようになったじゃないの」

 あの従順なグラスが噛みついてくるなんて愉快だわ。とても触れたくない話題だったのね。確かに七歳だもの。男女の情緒なんて普通はわかりっこないわ。

 腹が(よじ)れるかってほど大声で笑ってやったら、グラスはふて腐れたのか私を見なくなっちゃった。年相応のかわいさもあるじゃない。

「いいわ、年上からひとつ忠告してあげる。脈があると思ったなら手を出しちゃいなさい。私以上に、グラスも限られた時間しか残っていないのだから」

 人生を謳歌(おうか)できるのは、勇者と戦うまでよ。グラスも、コーイチもね。

 私が忠告したら、グラスは打っていた剣をパキりと折ってしまったわ。

「あっ……打ち直しですか。俺はそんな無責任な事しませんよ。確実に死ぬというのに、火遊びが乗じて忘れ形見を残すなんて愚かすぎます」

 デッドの事を否定しているつもりはないんでしょうけどね。普通に考えたら罪悪感の方が勝りそうもの。

「気持ちはわからなくないけど、子孫を残してあげる勇気と愛も時には必要よ。私だって、コーイチとの子は望んでいるもの。勿論、繋がりもね」

「それ、は」

 グラスが驚いて私と視線を合わせ、そしてすぐに逸らしたわ。悩みなさい。答えを否定するつもりはないけど、結論は考え得る選択肢を一通り視野に入れてから出すべきよ。

 これ以上は鍛冶の邪魔にしかならないから、私は部屋を歩いて去ったわ。

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