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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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542 ちょっとした望み

 魔王城タカハシの一角にある無骨な鍛冶場で、グラスが懸命に剣を打っているわ。時間にして昼食を食べてすぐってところね。

「シンプルなロングソードといったところかしら。けど研ぎ澄まされていてね」

「来るべき戦いの為に、俺も武器を用意しておきたいんですよ。チェル様」

 視線を打っている武器に向け、作業をしながらグラスは私の話し相手になってくれる。

「グラスが(あつか)うにしては、少々軽すぎるように見えてよ」

 グラスの鍛え上げられた肉体を(かんが)みるに、もう少し重みのある武器の方が強みを活かせそうに感じるわ。

「一本ならそうかも知れませんが、俺が憧れているのは双剣ですからね。シェイのスタイルを見ていて触発(しょくはつ)されました」

 シェイとは仲がよかったものね。グラスには持っていないセンスと、戦いに関する美を秘めていた。双剣には憧れがあるのかもしれなくてね。

「ところでだけど、ヴァリーには武器を渡したのかしら? 彼女に武器を(たしな)む気概があるとは思えないけれども」

 子供達は何だかんだでみんな武器を使っていたのよね。ヴァリーもそうなのかと疑問を口にしてみたわ。

 すると深い嘆息が返ってきた。

「大鎌でしたよ。それもかわいい装飾をふんだんにつけてと言われた、実用性が皆無の武器です」

 あの()の事だから、どう考えても見栄(みば)え重視ね。オシャレのアクセントぐらいに思っていそうだわ。

「話を変えましょうか。最近思っている事があるのだけど、グラスからみて私は魅力はあるかしら?」

 グラスの鍛冶(かじ)をしている手が止まり、横目で鋭く茶色い横目で見上げてきたわ。

「チェル様は充分に魅力的ですよ。特に、父さんにとっては」

 あら、わかりやすすぎたかしら。少しはからかいも入っていたんだけれども。

「魅力を感じてくれているわりには、私を求めていない気がするのよね。ススキに先を越されちゃったもの。(ねた)んでいるつもりはないのだけれど、ね」

 ススキのおかげでコーイチが少し立ち直ってくれたもの。(うらや)ましさと悔しさを感じているものの、感謝の方が大きくてよ。

「一度チェル様から甘えてみてはどうです。父さんはゾッコンですから、イチコロだと思いますよ」

「今更コーイチにわかりやすく甘え気になれないわ。昔のように隙あらばコーイチから求めてきてくれたら、受け入れられるのだけれど」

「言いにくいのですが、チェル様が脅しすぎたのだと思いますよ」

 グラスは視線を戻し、再び鍛冶に専念しだしたわ。世間知らずなのに図に乗った事を抜かしていた時代のコーイチに、(きゅう)を据えてきた事自体は間違っていなかったと思うわ。今となってはやり過ぎてしまっていたようだけれども。

「父さんも変なところで意地っ張りですからね。俺としてはチェル様から歩み寄ってあげてほしいです」

「意地っ張りなところもかわいげがあって好きなんだけれどね。けど、私から下手(したて)に出るつもりもないわ。私にも、意地があるもの」

 口に出して宣言すると、グラスの背中が冷えたように感じたわ。無言で語らないでほしいわね。

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