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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第8章 色欲のシャイン
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535 思ったより起死回生だった

「朝っぱらからお楽しみだったようね、コーイチ」

 コーイチと一緒に外へ出ると、怖いぐらいに美しい微笑みを(たずさ)えたチェルが宿の前で待ち受けていたわ。

 なんでこんな所にチェルが一人でいるのよ。今一番会うのが気まずいっていうか、怖くてエンカウントしたくない相手だってのに。

 タイミングがよすぎなんてもんじゃないでしょ絶対。どう考えてもあたし達の行動が知れ渡ってたわ。

 何か、何か言い訳しなくっちゃ。

 一歩ずつじっくりと近づいてくるチェルの圧が凄くって、言葉も出せずにアタフタするばかり。

 細く美しい白い手をコーイチの頬に伸ばしながら、心情を覗き込むように赤い瞳で見つめ上げた。

 対してコーイチは、顔を青くしてだらだらと汗を流している。捕食者と被食者の構図が悲しいぐらい見て取れるわ。

「いやぁ、若い女っていいよなぁ。つい我慢できずに手ぇ出しちまったぜ」

 コーイチのヤツ、最悪の言い回しであたしを(かば)うつもりね。冗談じゃないわ。なんの覚悟もなしに襲ったわけじゃないんだからね。

「チェル。あたしがムシャクシャして()ったわ。なんか文句ある!」

 コーイチとチェルの間に身体をねじ込んで、チェルと向き合う。

 チェルは驚いた表情を見せたかと思ったら、フフっと花が綻ぶように微笑んだわ。

「何よ」

「いいえ、やっぱりススキは素直でかわいくてね。よくやったわ」

「へ?」

 なんかやたらスッキリした笑顔で褒められたんだけど。あたしコーイチを横取りしたのよ。そこんところ理解してます。

 チェルは視線をあたしから少し上に向けて、コーイチを見た。

「朝出かける前に比べて随分と感情が戻っていてね。お楽しみがよほど楽しかったのかしら。顔色もいいし活気も感じられる。コレならフォーレが用意してくれるお昼ご飯のおかゆも食べられそうね」

 おかゆ? 成人男性が()(この)んで食べるメニューじゃないわよ。

 コーイチのコンディションが想像以上に悪い事に驚いていると、チェルが耳元まで近寄って囁いたわ。

「ススキにはセクシーな下着をプレゼントしなければいけなくてね」

「は、なんでそんなしゃれた物をもらう必要があるのよ」

「ススキはなんの覚悟もなしに勢いでお楽しみをしたでしょう。色気のない生娘(きむすめ)な下着もらしさがあって悪くないのだけれど、やはりソレ用の物は用意しておくに()した事ないわ」

 なんとなくセクシーぽい物を頭の中で着てみるけれども、どうもシックリこない。って言うかセクシーな下着ってどんなの?

「お言葉だけど、セクシーなのはチェルの方が雰囲気出るんじゃない」

「ギャップという意味ではススキに負けるし、本気度が目に見えてわかるからコーイチが燃えてくれるわ。それに私じゃダメだったの。だから、今はススキに(たく)すわ」

 ダメだったって、チェルが? (はた)から見ても互いに好き合っているのに、どうしてかしら。でも今はって事は、完全に諦めたわけでもないのよね。

「おいチェル、ススキもだがよぉ。いくらヒソヒソ話されたところで、こんだけ近ければさすがに聞こえるぞ」

「あら、女性の会話に割って入るだなんてコーイチも無粋ね。聞こえないふりをするのが紳士というものよ」

「女の子同士の秘密の会話なんだから、聞き耳なんて立てないでよね」

 コーイチの指摘通りに受け取るのがつまんなかったから、チェルに便乗して悪役にさせちゃった。

 コーイチの情けない表情がおかしくて、チェルと顔を見合わせて笑い合ったわ。

「ススキ、遠慮せずにいつでも家に来なさい。歓迎してよ」

「しょうがないから気が向いた時に行ってあげるわ。生活に支障をきたさない程度にはね」

「それじゃあコーイチ、お昼ご飯を食べに帰るわよ」

 チェルはコーイチの手を取り、ワガママに引っ張った。よろける程度で済んでるから、形だけでかなり気を遣ってるわね。

「んだな。(わり)ぃなチェル、迎えに来させちまってよ。それからススキ、今度の時までにちゃんと勉強しとくから、ムリはすんなよ」

「期待してあげるから、次は優しくリードしなさいよね」

 色んな意味で痛いのは、これっきりにしてほしいんだから。逃げるつもりもないけどね。

 帰り際に手を振るコーイチ。少し心が軽くなってるようでホっとしたわ。

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