533 積み重なる喪失と
「ええ、そう。ソレは意外だったわ。ご苦労様。コーイチには私から伝えておくから、アクアは休みなさい」
二階建て一軒家タカハシ家の寝室で、チェルがメッセージを使って遠い砂漠にいるアクアと遠距離で会話をしていたぜ。
普段から見慣れている光景だっつぅのに、どこか胸騒ぎを感じちまう。
「コーイチ。デザート・ヴェーでの戦いが終わってよ。シェインとエアが死んだわ」
チェルはメッセージを終えると、赤い瞳でオレをまっすぐ見ながら開口一番に結果を伝えてきた。躊躇いなく、無配慮に。
「そっか。そうだよな。ってシャインも死んだのか?」
結果自体は覚悟をしていた。わかっていたのに、もう三度目だというのに、喪失の衝撃には一向に慣れない。
ただそれでも予想外の喪失に純粋な驚きが湧き上がってきた。間抜けな口調で疑問を投げかけちまったぜ。
一番死のビジョンが浮かばなかったシャインの死が、信じられないというかあり得ないというか。
「死因はユニコーンの角を折られた事。シャインの弱点らしくてよ。なんでも角が繋がっている時は強制自動蘇生が発動していたようね」
強制自動蘇生? まさかシャインのスキル、ユニコーンホーンがソレだったのか。
「昔からナゾのタフさに疑問を感じていたのだけれども、よもや死んでは蘇生を繰り返していたとは思わなかったわ」
「そう考えっと、シャインは寧ろ死ねてよかったのかもしんねぇな」
何度死ぬ痛みと恐怖を体験しても死ぬ事を許されなかったんだろ。もはや一種の呪いじゃねぇか。
「確かに見方を変えると恐ろしくってね。ただシャインの蘇生能力だけど、他者には故意に使う事もできたようよ。現にコーイチ、あなた二回シャインに助けられていたわ」
二回助けられた。って事は俺、二回死んだ事があるのか。いやある。死ぬような体験が二回、記憶に。
シャインがいなければそのまま命を落としていたという事実が寒気となり、全身を震えさせる。
って思ったら顔をやわらかく温かい何かで包まれた。見上げると至近距離でチェルが見下ろしている。俺、チェルの胸に顔を埋めてねぇか?
「大丈夫よコーイチ。シャインの温情で今、コーイチは生き続けているのだから」
「そうだな。俺生きてる。生かされて、生を繋いでる」
天真爛漫で自由に生きたエアに元気づけられた挙げ句、同性嫌悪の塊で女性を一心に愛するシャインにさえ生を繋がれていたなんてな。
純粋な好意も、捻くれた愛情も捨て駒にして、俺は生き続けている。
こんな贅沢な子供の命の使い捨て方をして、生きちまってて本当にいいのか?
「こんだけ助けてもらっちまってるんだ、俺が生きなきゃそれこそしょうがねぇよなぁ」
ツラくても、苦しくても、逃げたくても、失っても生きなきゃいけねぇ。生きるって、気持ち悪ぃ。
「コーイチ。生きる自分を脅迫しないで。本当にツラいのなら、私に当たりなさい。私にだって、背負う覚悟はあってよ」
「バーカ。惚れた女に当たり散らすなんてみっともねぇし、余計惨めになっちまうじゃねぇか」
俺はまだ大丈夫だって笑顔を作ってやったら、泣きそうな切ない表情が返ってきやがったぜ。
笑えよなバカ。




