531 魂の牢獄
ここ、どこ? なんか世界が真っ白なんだけど。
「気がつきましたかエア。お疲れ様です、いい戦いでした」
「まっ、最後はみっともなく泣きじゃくってたけどな。キヒヒっ」
微笑みに優しさを滲ませながら労うシェイ。からかうように嘲笑ってくるデッド。
「シェイ? デッド? 二人とも死んだんじゃなかったの」
もう出合うはずのない二人に驚いて声を上げる。生きてるんだったら父ちゃんのところに帰ってきてくれなくちゃ。二人の生存を知ったら、父ちゃん泣いて喜ぶよ。
「僕もシェイも死んだに決まってんだろ。何勘違いしてんだっての」
「え?」
「そしてエアも死にました。よくわかりませんけどここで、自分たちの魂は留まっているようです」
ウチも死んだ? そうだ。最後はエリスの矢におでこを貫かれたんだ。
おでこを手で擦ると、腕の青アザがすっかりなくなっていることに気付く。治ってる、っていうより傷がなくなってる感じかな。
「そっか。楽しい人生だったな。っていうか見てたの?」
「意識をすれば現世の状態を視れるみたいなんです」
「どういう原理かしんねぇけど、便利な空間だぜ」
試しに愛の巣がどうなったか視てみると、崩壊するところを無事に脱出しているアクア達が脳裏に浮かんだ。
「見えた。凄いね。神様ってやつも粋な事してくれるね」
便利なのはいいんだけど、なんかイヤな感じがするんだよね。この空間。真っ白いだけで味気ないのはこの際おいておくとして、どこか安心できない予感がする。
「むっ、ここは?」
あたりを見渡していると、シャインの間抜けな声が耳に届いた。気がつくと傍にシャインが立って、疑わしげにあたりを見渡している。
「あそっか。シャインも死んだんだもんね」
「あぁ、来ちゃいましたか」
「追い出す事もできなきゃ追い出し方もわかんねぇかんなぁ。あんま変な事すんじゃねぇぞ」
シェイが落胆して、デッドが頭を掻きながら吐き捨てる。シャインってば信頼されてるな。悪い意味で。
歓迎されてないムードでシャインに声をかけたんだけど、聞こえていないのかマジメな表情で白い空間を見渡し続ける。
「あ? おい聞いてんのかシャイン」
「視界に入らないのならその方がありがたいのですが」
「なんという事だ。やれやれ、おいたの過ぎる妹だ事だ」
シャインはデッドとシェイの苦言を気にも留めず、嘆かわしいとばかりに頭を押さえて首を横に振る。
「えっと、シャインから見て妹って、シェイかヴァリーだよね」
とりあえず近くにいるシェイへ視線を向けると、首を横に振られた。
「自分は特に、何かをしているつもりはありませんけど」
「じゃあヴァリーって事か。何がわかったんだよシャイン」
デッドが消去法で答えを口にしながら、シャインに注目する。
「ミー達の魂は、ヴァリーが作った魂の牢獄、ヴァリーらしく言うなら魂の飼育ケースに囚われている状態だ」
ヴァリーがウチ達の魂を、この空間に?
衝撃に任せて白い空間内を見渡す。何もわからないけど、不気味さだけは増した気がする。シェイとデッドも動揺してる。
「確証はあるのですか?」
「シェイはミーとは性質的に正反対だと言っていたね。けどミーはそんな事は思っていなかった」
え、正反対でしょ。シェイが大雑把に闇で、シャインが大雑把に光。うん。やっぱり正反対だよ。
「寧ろミーと正反対なのはヴァリーさ。ミーが司る力が生とするなら、ヴァリーが司るのは死だからね。司る力が生死という軸にあるからこそ、感じ取れるのだよ」
「マジか。ひょっとしよぉ、先に死んだシャインよりも、後から死んだエアの方が先にこの空間に来たのも関係してんのか?」
デッドの指摘を聞いて気付かされる。確かにウチよりもシャインの方が遅れて現れたって。
「恐らく生の力がこの空間を拒絶した。故に、ミーの魂を取り込むのに時間がかかったのだろう」
「けどさ、どうしてヴァリーはウチ達の魂を閉じ込めたのかな。寂しかった、からとかじゃないよね」
言っておいてなんだけど、ヴァリーの性格からしてなさそうだよね。
「そんなかわいい性格じゃねぇだろアイツ」
「碌でもない予感しかしませんね」
デッドが呆れて、シェイが同調する。
「心しておきたまえ。ヴァリーはミー達の魂を戦いで使うつもりだぞ」
だよね。思い出してみると戦いが終わる度に、みんなに死んじゃえばよかったのにとか言ってたっけ。すんごい露骨だったのに、気付けないもんだね。
「ん? マジか。って事はヴァリーのやつ、かなりえげつない事する気だぜ」
デッドが何かを思い出したかのように苦い表情をする。
「既に充分にえげつない予感がしますが、デッドは何に気付いたのですか」
「ロンギングを襲撃した時によぉ、アイツたぶんマリーの魂もストックしてやがったぜ」
うっわー……
デッドの発言でみんなの顔が渋くなったよ。




