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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第8章 色欲のシャイン
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528 最後の弾丸

 シャインが死んだのをきっかけに、愛の巣全体が揺れ始めた。

「きゃ。もう崩れ出してる。シャインの魔力の供給が尽きたんだ。エア、ひとまず脱出しよう」

 慌てながらウチへと声をかけてくるアクアに、弾丸(カード)を一枚飛ばして攻撃する。頬を掠め、床へと深く突き刺さる。

()っ、エア?」

「ちょっとウチの事、甘く見すぎじゃない。シャインがいないと戦えないなんて思ってないよね!」

 両手で風を集めて、風圧弾をアクアへと放つ。なんの小細工もないまっすぐな攻撃だったから横跳びで簡単に(かわ)されちゃったけど、意思表示はした。

「やめよう。もうエアに勝ち目なんてないでしょ。勝負は着いたんだよ」

 見上げながら無防備に訴えかけてくるアクア。勘弁してよ。トライデントもいつの間にかしまっちゃてるじゃん。攻撃してるんだから戦意呼び戻してってば。ソレに比べて。

 チラリとエリスを一瞥(いちべつ)すると、いつでも矢を放てるようにウチの事を睨み付けていた。

 エリスはやる気満々だね。ウチも(たぎ)っちゃうよ。

「へぇ、勝ち目がないから降参すると思ったんだ。冗談っ! 戦い続けるのも負けを認めるのも、全部ウチの自由だ。アクアに一方的には決めさせない!」

 まだ悪あがきができるんだから。ウチの自由は、誰にも止めさせない。

 今まで隠していた本来の姿を披露する。黄色い輝きが収まった時、アクアは青い瞳を大きく見開いて驚いた。

「エア、その翼……」

 前縁(ぜんえん)は無様に折れ曲がり、羽は不揃いにハゲ散らかし、とてもまともに飛べない状態の黄色い翼。(ひしゃ)げ果ててしまった、ウチの第二の命。

「痛々しいよね。ブレイブ・ブレイド同士がぶつかり合った衝撃で、使い物にならなくなっちゃったんだ。でもコレが、ウチがソル・トゥーレで死んでいなかった証拠なんだよね」

 見るも無惨な翼を()でながら、自由に飛べていた頃を(いつく)しむ。

「シャインの蘇生って完全回復なんだ」

 まぁ父ちゃんは例外だったみたいだけど。蘇生してから回復に時間がかかってたあたり、シャインも一筋縄にはいかなかったんだろうな。

「もし死んでから復活してたら腕のアザもこの翼も、すぐに元通りに治ってたんだよ」

 勿体ないと気持ちはあったけど、死んでから生き返るのは自由に反するんだよね。だって蘇生(ソレ)は、ウチじゃなくてシャインの自由(せんたく)だったから。

「だったら、なおさら戦うなんてムリじゃない。もう充分傷ついたんだから、エアも一緒に生きようよ」

 悲痛な顔をして、やわらかくも傷ついた手を伸ばしてくるアクア。

 ゴメンね。お姉ちゃんの願いも、ツラい気持ちもわかるんだ。けどウチが()えられないの。壊れてしまったのが腕だけだったら、不自由な助けられる生活だって(あま)んじれたと思う。

 けど翼はダメ。空はダメ。鳥のウチが飛ぶのを奪われるのだけは、どうしても認められない。だって、この翼で風を感じられる事が、何より好きだったから。

「だから、ソレを決めるのはウチの自由だ。生かすも殺すも、生きるも死ぬも、全部っ!」

 こんなズタボロな翼でも、もう一回くらいは飛べるんだから。ほら、ウチの想いを受け止める準備をしないと、アクアも壊れる事になるよ。

 酷く傷む翼をむりやり広げ、大きく羽ばたいて、無造作に舞い散る黄色い羽を置き去りにしながらアクアへと急接近する。

 決めるよ、ウチの最後の弾丸。(ふせ)がないなら容赦なく勝っちゃうんだから。

「はぁぁぁぁぁぁあっ! 黄色い弾丸(アマリリョ・フレンテ)!」

 風を突き抜けるほどの高速な、全体重を乗せた頭突き。

 呆然として無抵抗なアクアが瞬時に近付く。もう防御は間に合わない。ウチの勝ちだ。

「うっ!」

 後もう少しってところで、胸を熱い衝撃が貫いた。体勢を崩して床へ思いっきり墜落してしまう。

 全身に打ち付けて色んなところが痛い。何が起こった。

「エア! エリスっ!」

 アクアの叫びが耳に届いて、エリスの方を確認する。油断なく、矢を放った態勢でウチを睨み付けていた。

「させるわけないでしょ! その必殺技(わざ)で、二度も大切な人を奪わせないんだから!」

 確固たる宣言。一番酷く痛む胸。確認してようやく理解した。

 ははっ、信じられないや。あのタイミングを、射られたなんて。

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