526 一角
「その真剣な眼差し、いいね。綺麗すぎてゾっとするよクミン。やはり本気になったレディは美しい。ミーも全力で応えねばなるまい」
今度こそ本気で戦いにくるのかい。シャインはマジメな顔つきでふざけた事をやってのけるから判断に困るんだよ。けど。
緊張感で肌がヒリつく。充分に距離が離れているというのに目が離せない。こんな距離、シャインなら一瞬で潰してくる。
対峙しているだけで汗がジワついてくるよ。
「来な。シャインの全力、叩き潰してやるよ」
「頼もしい。いくぞ!」
かけ声と同時に、一直線に駆けてくる。前傾姿勢で、額の角を突き出しながら。
目を凝らせ。タイミングを見極めろ。シャインの馬力を利用した、特大のカウンターをお見舞いしてやるんだよ。
「ハイビーム」
「しまっ!」
突き出された一角から放たれる閃光に目を眩まされる。
見極める事に集中していたのを利用された。近付いてくる足音が、慌てふためく猶予さえも奪っていく。とっさに大剣の腹を突き出して防御する。
「突き破る。一角!」
「がぁぁぁぁぁあっ!」
左肩が焼けるほどの熱を帯びる。目がバカになって見えない分。熱だけが強烈に広く感じられる。
どうなってる? どれほど酷いダメージを負った? 左腕は無事なのかい?
「サヨナラだクミン。最後はミーの逞しく反り勃つユニコーンホーンで深く貫いてあげよう」
どこまでも優しくふざけた声音で囁かれた瞬間、左肩を軸に吹き飛ばされる。
「あぁぁぁぁぁあっ!」
視界を奪われたまま、上下もわからぬ浮遊感に支配される。より酷くなった肩の熱だけが存在感を示していて、それ以外はわからない。
ワシは今どこにいる。わからない。わからないけどただ、右手に握っている大剣だけが闘志を残している。
「さぁ、ミーの元まで落ちてきたまえ。クミンの全てを抱き止め、楽園まで案内しよう」
優しいねえ。声で自らの居場所どころか、セリフでワシの居場所まで知らせてくれるだなんて。
高さは知らないけど、ワシはシャインの真上だね。
臓腑が剥がれるような浮遊感に、最後のチャンスを予感した。
回復してきたボヤけた視界に、人馬のシルエットを捉える。
「素直に抱かれてやれるほど、ワシはしおらしくないんだよ!」
「抗ってみたまえ。あがきすらもミーは抱き止めてみせよう。一角!」
「はぁぁぁぁぁあっ!」
突き伸ばされた一角へ、全力で大剣を叩きつける。
キーンっと、甲高い音を鳴らしながら、根元からユニコーンホーンをへし折った。
床に大剣を叩きつけながら着地をし、迷いが生じる。
どっちだ。どっちに跳べばシャインとの距離を取れる。
時間は逡巡を咎め、大きな手に頭を掴まれてしまう。
終わった。迷うぐらいならデタラメにでも跳ぶべきだったよ。




