525 嫌悪する光
ちっ。悶え苦しんではいるけど倒せそうな気配はないね。やっぱりパッと考えつくような急所は弱点になりえないかい。
試しにシャインの心臓を斬り裂き、股間も叩き潰してみたんだけ効果はいまひとつさ。
「いくらクミンとはいえ、少々度が過ぎるな。押し倒してから痛い目をみてもらおう」
シャインは痛みに表情を歪ませながらも、四足の馬脚で高く跳んで踏み潰そうとしてきた。
「逃げろクミン」
ワイズが血相を抱えて叫ぶ。
確かに驚異的さ。軽く見積もって五百キロ弱はある体重で、全力で踏みつけてくるんだ。けど確信があるんだよ。
「どうせワシには効かないんだろっ!」
大剣の腹をシャインに向けて、真っ向から防御の態勢を取る。
両手で支えている大剣に重い衝撃がのしかかり、足下の床がひび割れて沈む。けど抑え切れている。
「はぁぁぁぁあっ!」
裂帛の一声で押し返すと、シャインが宙に舞ったよ。
「何っ!」
何っ、じゃないよ。デタラメな弱さじゃないかい。コレまで戦ってきたタカハシ家の中で一番の弱さだよ。
ただでさえ凶悪な体重が勢いを乗せて降ってきてるってのに、簡単に押し返せるほど軽いなんてあり得ないね。
ワシが男だったら、呆気なく潰されてたんだろ。ソル・トゥーレでアクアから聞いたとおりの実力じゃないかい。色んな意味でイヤになるよ。
シャインの着地地点へ駆け、鳩尾に柄頭をめり込ませる。
「おごはっ!」
殺った。手応えあり。
そう、手応えがあるからタチが悪いんだ。どの攻撃も手応えがあるのに倒れない。
隙を見せぬよう後方へ跳び退いて距離をとり、剣先をシャインへと向ける。
「ひっ、酷いじゃないか。ミーの胸に飛び込んでくるなら、両腕を広げて身体でぶつかってきたまえよ」
口の端から血を垂らしながらも、笑みを浮かべるシャイン。最初に斬った胸の傷も、股間を裂いた傷も、いつの間にやら塞がっている。
「女の子を抱きたいならバケモノやめてからにしな。ソレと節操ないのはいただけないよ」
大剣を振り上げたまま猛接近し、シャインの抱き締めをジャンプで躱しながら着地際に白い尻尾を斬り落とす。
動いてる。尻尾もハズレだね。どこが弱点なんだい。
「節操がないのは仕方がないだろう。レディは皆、魅力的なのだから。一人に絞るなんてとてもとても」
シャインが身体を捻りながらアッパーの軌道で掴みかかってきた。
しまった。首を掴まれっ。
宙吊りにされるビジョンが浮かび上がる。肝を冷やしていたら、あろう事か胸を掴んできたよ。
「……はっ?」
「やわらかく魅力的、かつ引き締まった胸筋だ。さぞかしストイックな鍛錬をしてきた事だろう」
顔を近寄せながら至近距離で見つめ合って囁くシャイン。頭の中が怒りやら羞恥やらで真っ白になりながらも、反射で白い馬足を斬り裂いた。
こっちは本気で命の殺りとりしてるってのにねえ。強者の余裕を噛まされているみたいで腹が立つ。
本能的に離れたかったので跳び退いて観察をする。やっぱり足の傷も消えてる。
「レディは男と違って総合的に勤勉なのだよ。逆を説くと男は怠けやすく、どこか無責任だ。仕事にしても、休む時も、遊びでさえもね」
「いくら何でも女を神格化しすぎじゃないかい。男だろうが女だろうがマジメなヤツはマジメだし、だらしないヤツはだらしないさ」
何も考えずに斬ったけど、そういえば馬って足が敏感じゃなかったかい。
「そして男はレディを見下しやすい。本能的に下だと見やすいのだ。浅ましくて仕方がないよ。総合的に見て支えられているのは男の方だっていうのにね。立てられて増長し、顧みない。愚かな生き物なのだよ!」
ああ、そうかい。シャインはとことん、全ての男が嫌いなんだね。いいさ、ワシが終止符を打ってやろうじゃないか。
ワシは次の一点に狙いを定めて、大剣を構えたよ。




