522 拒絶の光
おぉ、怖ぇ。女の尻を追っかけてる時の間抜け雰囲気なんて完全に鳴りを潜めてやがるぜ。
ただ魔王シャインと対峙してるだけだってのに、湧き上がる殺意で押し潰されちまいそうだ。
杖握ってる手のひらが汗で湿ってやがらぁ。ガチでヤベぇぞコレ。
アクアとエリスが魔王エアを倒す前にシャインをサクっと片付けるつもりだったけど、オレらが時間稼ぎして増援を待った方が賢いな。
「うおぉぉぉぉおっ! ブレイブ・ブレイドっ!」
はっ?
どう魔法を展開して戦闘を長引かせるか打算している間に、ジャスが初手から勇者の切り札を放ちやがった。
そうだったよ。ジャスも殺意で凝り固まった状態だったよ。だからってその手は早計だろぉが。
「おいジャス」
「大丈夫だワイズ。確かに利用される事はあったけども、ブレイブ・ブレイド自体を正面から打ち砕かれた事は一度もない。もう、タカハシ家に手心なんて加えない!」
焦るオレとは対照的に、ジャスは勝利を確信しつつも隙のない眼差しで睨み付けている。
「ふん、つまらん。やはり野蛮な男共には早々と退場して貰おう」
魔を討ち滅ぼす勇者の力が密集した刃へ、シャインは正面から突っ込んできた。
いや違う。シャインの目に映っているのはオレらで、ブレイブ・ブレイドなんて進行を妨げる障害物程度にしか見ていねぇ。
「ブレイブ・ブレイドの魔に対する力は絶対だ。いくら不死身の肉体を有しようとも、ボクの刃は必ず魔王を討ち倒す」
「笑えない事を。この世に絶対があるとすれば、ソレはミーがこの世の全てのレディ達と添い遂げる事ただその一点だけだっ!」
シャインは全力で世迷い言を宣いながら、羽虫を払うようにブレイブ・ブレイドを弾き砕いた。
「なっ、バカなっ!」
「いぃっ!」
わけわかんねぇ事言いながらわけわかんねぇ事やってんじゃねぇぞ。ジャスも開いた口が塞がってねぇじゃねぇか。
「ハイビーム!」
「うわぁぁっ!」
シャインの額の角からまばゆい光が放たれ、視界をバカにされる。
なんも見えねぇ。見えねぇけど怒濤の足音が大きくなってきやがる。ヤベぇ。
「わぁぁぁぁあっ! クリエイトアイスっ!」
焦りながら足音の方へ氷の盾を精製し、攻撃が止まれと願う。
「見るに堪えん悪あがきだ。消えろ!」
氷の盾が砕かれる音と同時に、衝撃が全身を襲う。視界を奪われたまま闇雲に吹き飛ばされ、無造作に床へと叩きつけられた。
「がっ! うっ、かはぁっ」
全身が痛ぇし、息が、できねぇ。なんつぅ馬鹿力だ。ジャスは無事か。
「おい、ジャスぅ」
徐々に色を取り戻し、輪郭が整ってくる景色。
見渡すと、目を見開いて俯せに倒れるジャスを発見したぜ。
「ジャスっ! 痛ぅ。おいジャス」
痛みで身を捩らせながらも、必死に呼びかける。オレに気付いてるのかどうか定かじゃねぇが、放心しながら呟いたぜ。
「そんな。ボクの、ブレイブ・ブレイドが……」
ダメージ以上に、心が折られてやがった。




