520 それぞれの標的
氷の盾なんて木っ端微塵だね。シャインの体重と馬力、加えてウチの風で追い風を吹かせて速度を増したんだもん。スピードの乗ったウチのおでこに砕けない物なんてないよ。
「見たまえエア。いい感じに勇者達が分れた。ここからは手筈通り、ミーがアクアとエリスの相手をしよう。エアはその他の足止めに励みたまえ」
イキイキとしたシャインの横顔が気に障るけど、今回のメインはシャインだもんね。
「わかってるって。できる限り長く足止めしてあげるから、シャインも楽しんで」
「エアぁぁぁぁあっ!」
ジャスとワイズに狙いを定めようとした瞬間、気合いが入ったアクアの叫びが愛の巣に響いた。
振り向くと、ウチにトライデントを向けて突進してきてたよ。
「熱烈だね。けどアクアの相手はシャインの方だよ」
「その通りだアクア。せっかくミーがいるのだから余所見しないで、おっと」
シャインがアクアの前に出ようとしたところで、矢が鋭く飛来する。反射的にシャインが避けた事でウチが無防備にされたよ。
「ちょっ、危なっ!」
とっさに飛んで宙に逃げる。愛の巣の天井は高めに造ってあるけれども、自由自在に飛び回るには広さが足りない。
「エリス。まずはエアを倒すよ!」
「任せてアクア」
ほらきた。宙に逃げた瞬間に矢の嵐。しかもシッカリと属性や緩急つけてるから避けづらいったらありゃしない。
室内って利点を生かす為に天井や壁を蹴りながら逃げ回る。
「やれやれ。ミーと言うメインディッシュがあるというのに、君たちは好物を後から食べる口なんだね。けど、ミーも黙っちゃいなっ!」
「サンダースピアっ!」
シャインがウチの援護に回ってくれそうだったけれども、ワイズの雷魔法で阻止された。
「おい馬野郎。テメェの相手はこっちだぜ。対抗する気はねぇが、アクア達より早く片付けてやるよ」
「ゴミくず以下の度胸だ。気は進まんが、ミーの手で早々に掃除せねばなるまい」
挑発に乗ったシャインが、ワイズとジャスへ殺気を向ける。
シャインって男が相手になると一瞬で沸騰するよね。まっ、その方が本領発揮できるから願ったりだよ。後はウチがどれだけ戦えるか、ってえ。
矢を必死に避けていたら、無数の水球にまで囲まれてるし。アクアっ!
驚いて視線を向けると、青い瞳と目が合ったよ。
「いくよエア。ゲリラ槍雨」
「勘弁願えないかなあっ!」
水球ひとつひとつがトライデントへ形状し、ウチを貫かんと四方八方から飛来する。矢だけでも厄介なに槍なんて追加しないで欲しいね。殺意高すぎるってもお。
風圧で弾きつつ必死に逃け回りながら、お尻のポケットに入っているカードケースに手を伸ばしたよ。
「エアスポット! こうなったら破れかぶれだっ!」
愛の巣内部の十数ヵ所に流れる風が密集するスポットを造り、カードケースから全カードをバラ撒いたよ。




