519 新ツープラトン
「そんな出入り口に陣取っていないで、奥まで入ってきたまえよ。それともすぐに逃げられる算高でも立てているのかな?」
扉を開けた瞬間に歓迎が始まったせいで踏み入る事を忘れちまってたぜ。指摘されて進むのは癪だが、臆病者と思われてもおもしろくねぇな。
「いこうぜみんな。慎重にな」
怖い顔をしながら黙って睨み付けているジャスに変わって、オレが号令を出したぜ。
無言で頷き、武器を構えながら一歩ずつ愛の巣の内部へと踏み入ってゆく。
充分に入り、まだシャインと距離があるタイミングでヒュンと風が吹いた。室内に不釣り合いな黄色い羽が舞う。
この羽、まさか。
「エア」
アクアが確信の声を上げる。天井付近から魔王エアが、腕を組んだ仁王立ち状態でシャインの前まで垂直にスッと降りてきた。
「やっほアクア。久しぶり。大空への塔では中途半端な形で逃げちゃってゴメンね」
相変わらず人懐っこい楽しそうな笑顔だ。ただ前と違って両腕には包帯が巻かれている。戦いの傷が癒えてないのかもしれねぇ。だったらチャンスだ。
「エア、その腕」
「気付いた。かっこいいでしょ。厨二病みたいで。ホントに力を封じ込めてるかもよ」
腕を見せびらかしながらチャラけてっけど、マジで力を封じ込めてたりしてねぇだろぉなぁ。隠し球とか勘弁だぜ。
「戯れはもういいだろうエア。ミー達の愛の力でぶちかましてやろうではないか」
「実戦じゃなかったら蹴り入れてるところだったけどね。それじゃ、新ツープラトンいくよっ」
シャインが馴れ馴れしく肩を叩いた事に不服なエアだったが、すぐに気を取り直しやがった。ヤバいのがくる予感しかしねぇ。
後方のシャインが白く輝く。額からまっすぐな角を生やし、白馬の下半身の姿へと変貌を遂げた。
「はっ!」
シャインが駆け出すと同時に、エアがジャンプをしてシャインの肩に乗ったぜ。エアは身体を床と平行にさせたまま、シャインと共に物凄い速度で突っ込んできやがった。
「黙ってやらせないからっ!」
エリスが矢を放つけども、あまりのスピードで発生した風圧に逸らされちまう。
「うそでしょ!」
「ってぇ! ちょっと待ってよエア。そのファイナルベ○トの相方は馬じゃなくて犀だよ」
ちょっと待つのはアクアの方だ。明らかに驚いてるベクトルが違うだろぉが。
オレ達が慌てふためいている間にも、エアのおでこが空を切りながら急接近してくる。
「細かい事は気にしない。ヘビープレ○シャー!」
「間に合えっ! クリエイトアイス!」
ギリギリで氷の盾を形成したが、構わずおでこから激突して砕きやがった。
「うわぁぁぁあっ!」
直撃してもいないのに吹き飛ばされるほどの威力って、こっちは満身創痍なんだから少しは手加減しやがれ。
「ジャス、大丈夫か」
「問題ない。ワイズも平気だな」
「へっ。一撃でやられて堪っかよ」
ジャスと一緒に立ち上がりながら、シャインとエアを視界に捉える。魔王二人の向こう側では、アクアとエリスも戦闘態勢を取っていたぜ。
体よく挟み撃ちの形になったと喜ぶべきか、戦力を分断させられちまったとみるべきか。
先手を許す形で始まっちまったのが不穏で仕方ねぇぜ。




