518 愛の巣での歓迎
砂漠に浮かぶ宮殿とでも言おうか。かなりデカい魔王城だ。
高さはさほどじゃねぇけど、かなりの広さを誇っているのが外見から窺えるぜ。
「ここがあの馬の魔王城ね」
「何よアクア、そのセリフ。魔王城の事ハウスなんて言うの初めて聞いたんだけど」
「一度言ってみたかったんだよね」
よくわからんけど満足げにしているアクアへエリスがツッコミを入れてるぜ。
アクアは元気そうだが、エリスは少々やつれてやがる。まぁそんだけ砂漠横断が過酷だったんだけどな。特に二人は賊が集中してたから、負担もオレらの比じゃねぇ。
「行こうワイズ。こんなふざけた魔王城、さっさと壊滅させなくちゃ」
「あぁ、んだな」
光の灯っていない瞳で魔王城愛の巣を見上げているジャスに、相づちを返すぜ。
ジャスのヤツ、アクア達を視界からシャットダウンしてやがる。すまねぇクミン。シャインとの死闘が終わってからも、オレ達の説得いは続きそうだ。
ロンギングの精鋭達を外に残し、入り口へと続く階段を進んでいく。
コレまで攻略してきた魔王城を考えっと、愛の巣の歓迎も一筋縄じゃいかねぇだろ。種族を生かしたトラップか、或いは魔物の大群でお出迎えか、油断なんねぇぜ。
汗を拭いながら階段を上り、ムダにデカい扉を開く。瞬間、大音量の音楽が鳴り響いてきたぜ。
「なんだ、罠か!」
警戒しながら愛の巣内部を注視する。広大な広場に赤い絨毯。左右には等間隔に太い支柱が並んでいる。
様々な色の衣装に着飾った褐色美女達が、音楽に乗って踊りながら登場してきた。
時にはゆったり歩調を合わせながら、時に激しく腰や手足を動かしながら、そして表情さえも音楽に乗せて踊り狂う。
ジャスは無表情で立ち尽くしちまったぜ。かくいうオレも、衝撃のあまり独り言が漏れちまった。
「おぉ、ワンダフォー」
エリスの視線が刺さってる気がするど、しょうがねぇだろ。今までヤロー共の乱雑で薄汚い歓迎ばかり受けてきたんだ。
急に色とりどりの素晴らしい洗練された歓迎を受けちまったら魅入っちまうってもんだろ。
「はっ、ははっ。シャインらしくて笑えないや」
アクアが無感情の笑顔で眺めるぜ。
曲が佳境に入ると中央奥の扉から、主役登場とばかりにシャインと褐色赤毛の美女が踊りながら出てきたぜ。
ダンスはシャインと赤毛の美女のバディを中心に激しさを増していく。
なんて魔王だ。羨ましいぞ小チクショウ。
それと端の方で踊ってる子供に交じって、布のようなドレスを身に纏ったクミンが踊ってるように見えるのはオレの気のせいか?
肌が他より白い分、悪目立ちしてるんだけど気のせいだよな。
うん。気のせい。にしてもダンスがぎこちねぇな。周りの子供の方がまだ踊れてんじゃねぇか。
よくよく内部を観察してみると、音楽隊も全員女性だぜ。ホントに徹底してやがるぜ。
激しく熱情的なダンスは時間にして五分ほど続き、最後は褐色美女に囲まれる形で、シャインと赤髪美女が一緒にポーズをとってフィニッシュした。
ダンス自体は凄かったから、余韻の間に拍手でもした方がよかったのかもしれねぇ。
満足したのか褐色美女達は早々に愛の巣内部へ去っていったぜ。
「いやぁ、我ながら素晴らしいダンスだったよ。勇者達を歓迎するに相応しいね。どうだいハスナ、勇者との戦いが終わったらベッドルームで二回目のダンスを二人きりでぼっ!」
シャインが赤髪美女に顔を近づけながら囁くと、目にもとまらぬ鳩尾パンチで返事を貰ったぜ。膝から崩れ落ちて床に倒れ込んだな。
「くだらない事言ってないでさっさと勇者と戦ってきな。尻拭いはしてやるから、悔いのが残らないようにねシャイン」
やれやれと言った感じで、肩幅に足を開きながら手をパンパンと叩く。そして去り際に背を向けながら発破をかけたぜ。
「やれやれ。最後までハスナは素直になってくれなかったよ。待たせたねアクア、エリス。そしてその他二人」
「清々しい程の省略ぶりだな。魔王シャイン。余興は終わりか。なら、いくぞ」
ジャスは早々に会話を打ち切ると、剣を構えたぜ。オレ達もすかさず各々の得物を構える。
「節操がないね。もっと余裕を持って大らかにしなければレディにはモテないだろう。仕方ない、そこら辺の駆け引きもミーが直々にレクチャーしてやろう」
悠々と立ち上がりながら、シャインが不適の笑みを浮かべたぜ。
「ミーはシャイン。シャイン・タカハシさ。さぁ、皆で愛を語らおうではないか」
両腕を広げ胸を張りながら、女を受け入れる態勢でシャインが宣ったぜ。




