513 勝利の糸口
「ハスナはあのバカを殺そうとしたんだね」
「したさ。真正面から斬り掛かっては血を流しながら恍惚な笑みを浮かべたし、寝込みを襲ってはシミターを腹に貫通させながら夜這いにきてくれたのかいとか嬉しそうに宣うし。何度殺っても喜色の笑みで気色悪い反応をするから、終いにはあたいが引いちまったよ」
ハスナは苦々しい表情をしながら言葉を吐き捨てたね。
やる気が削がれて仕方ないよ。今まで戦ってきたタカハシ家の中で一番近いのは魔王シェイだね。攫うという名目で実質、弱者を助け出してところがそっくりだ。
実力面だけ見ても厄介だね。タカハシ家との戦い以前でも、殺せない敵をには常に苦渋を強いられてきたからね。
「あぁ、思い返してみれば何体かいたね。エフィーを含めた四人で旅をしている時に、一見不死身そうな敵が」
「かぁー。世の中ってのは広いね。あのバカ以外にも死なないヤツがいるのかい」
「よくよく考えたら、案外身近にもいたよ。まずアンデット全般。そしてゴーレムといった類い。あいつらはコアを破壊しない限り活動し続けるタイプだったね」
なんとなく関連付けて思い出してみたけど、ひょっとして魔王シャインもその類いかい?
言葉にしながら浮かんできた些細な疑問だったけれども、引っかかりを感じて考え込む。
「あのバカがコアで動くタイプだってのかい? だったら弱点は股間に決まりだね。不能になったら生存してても生きていけないだろうよ」
言っておいてツボに入ったのか、ハスナが腹を抱えて笑い出したよ。息が出来ず幸せそうに苦しんでる。
「叩いてみる価値はあるかもしれないね」
「ひーっ。ひーっ……はぇ?」
笑いながら疑問の声を上げて見上げてきたよ。
「いったん先入観を捨てて試さないといけないって思ったんだよ。もし弱点以外で致命傷を与えられないタイプだったのなら、見つけ出さなきゃ負けるからね」
後は戦闘中に探る隙があるかだけれど、あるね。とても癪だけど、あのバカはワシというか、女全般に無条件で手加減するヤツだ。
勝機が浮かんできたかもしれないよ。
「アンタ、あのバカを殺すのかい?」
責めるようなその問いに、魔王シャインを心配するような色は感じられなかった。
「倒して止まってくれるならその必要もなくなるけど、望みは薄いよ。タカハシ家は敗北した時に生存を選べない不器用な連中だからね」
「タカハシ家? なんだいそりゃ」
ああ、ハスナは魔王シャインしか知らないのかい。
「あのバカを含めた、世界中で侵略行為をしている連中の事さ。侵略されてるのはデザート・ヴェーだけじゃないんだよ」
「って事はアレかい? 他の地方でも女達がタカハシ家って家族みたいな名称の連中に攫われてるのかい」
マジメに聞いてくるもんだから、思わず吹き出してしまったわ。
「くくっ、やめてくれハスナ。腹が捩れちまうじゃないかい」
デッドは若干似たような事をしてなくもなかったけど、アクアやシェイ、エアが女を根こそぎ攫うだなんてバカげた事をしたなんて想像したらおかしくなったよ。
「あたいはそんなに的外れな事を言ったかい」
「まあ、ね。タカハシ家全員があのバカみたいだったら世も末だよ」
ハスナは納得したように相づちを打ったよ。あのバカが複数人いるところでも想像したならゲンナリもするだろうね。
「それと家族みたいじゃなくて、家族だ。あのバカの兄弟が一斉に侵略行為を始めたのさ」
「やっぱりその家族も女好きなのかい!」
どうしてもソコが重要なんだね。魔王シャインを軸に考えてるせいで、偏見がついて回っちまってるよ。
「安心しな。性格でみれば全員似てなかったから」
ワシが断言すると、ハスナは全力で安堵の息を吐いたよ。よっぽどだね。
「それとあのバカを殺したら、愛の巣で暮らしてる女達がどうなるか心配なんだろ」
核心を突いたつもりだったよ。意図はどうあれ庇護下に入っている事は間違いないからね。あのバカが死ねば、ハスナ達は愛の巣ごと居場所を失ってしまう。
「実のところ心配はあまりしてないんだよ。不安って言葉の方が的確だね。けどきっと、なんとかなるだろうさ」
赤茶の瞳に覚悟を宿しながら、不適な笑みを浮かべたよ。




