509 お目付役の少女
「んっ……ここは、どこだい?」
目を覚ますと砂色の天井が視界に映ったよ。
被さっていた布団をどかして身体を起こそうとすると、ついた手がマットに沈み込んだね。かなりフカフカなベッドじゃないかい。
「贅沢な環境だねえ。しかしおかしい、高級宿に泊まった記憶なんてこれっぽっちもないんだけど」
なんでワシはここにいる。眠る前は何があった。
額に手を当てて考え込む。なかなか記憶が結びつかない。
「気がついたようだね。ドワーフの戦士ちゃん。気分はどうだい」
強気な声色の方に目を向けると、15~6歳ほどの少女が丸椅子に座っていたよ。片足を自身の膝に乗せ、その足に肘をついてアゴに手を乗せている。
ボサボサの赤髪が無造作に肩まで伸びていて、赤茶色のつり目から気の強さを感じさせてくれるよ。
肌は健康的に焼けた褐色で、グラマーな体型をしているね。服装もセクシーな赤い服に白くてピッチリのズボン。履き物は白いサンダルかい。踊りが映えそうじゃないか。
そして、手の届く範囲にはシミターが置いてある、と。
「夢見心地さ。現実感がまるでないね。ここはどこでアンタは誰なんだい?」
「あたいはハスナ。元盗賊のカシラさ。今はアンタのお目付役だよ。クミンちゃん」
なるほど。野蛮な髪型をしてるわけだね。元っていうのが引っかかるけども。
「随分と教育の行き届いてない呼び方をしてくれるじゃいかい。ハスナちゃん」
お前の方がワシより下だと意を込めてちゃん付けを返すと、ハスナは驚いてから吹き出した。
「くくっ。いいねその負けん気、さすがは勇者の戦士だ。気に入ったよ。後で酒でも飲もうや」
「そいつはいいね」
愉快そうに笑ってくれるよ。ただ嫌いじゃない。気が合いそうだよ。立場さえ敵対していなければ、ね。
「それからここは、とある大馬鹿の根城、愛の巣さ」
愛の巣という単語を聞いた瞬間、頭痛がフラッシュバックしてきたよ。おかしいね、頭痛ってフラッシュバックするもんだったけか。まぁとにかく思い出したよ。
「隙を突かれてシャインに負けたんだったよ。って事は連れ去られたわけかい。どおりで見知らぬ場所だよ……んっ?」
上品さを保った豪華な部屋を眺めていると、違和感に気付いて自身の姿を見下ろした。
「なんだいこの格好は。随分と女に幻想を抱きすぎじゃないかい」
ワシが身につけていたのは、薄っすいピンクのやたらヒラヒラした服。いやもう服と言うよりは布だね。ちょっとズレ落ちたら見えるトコが見えちまう。はっ、まさか。
「シャインがワシの服をヒン剥いてコレを着せたのかい」
想像するだけで心が悍ましい物で潰されそうになるよ。
「あぁ、そこは安心していいよ。確かに用意したのはシャインのバカだが、着替えさせたのはあたいだからね」
あっけらかんと言う姿にウソが混じっている気配はないね。少し安心したよ。
「落ち着かないから元の服を返してくれないかい」
「あのバカは当分返す気ないだろうね。代わりに、ソレは自由に持ち歩いて構わないとよ」
「ソレ?」
視線に誘導された方向を見た瞬間、訳がわかんなくなる。
「どうしてコレをワシの自由にさせるんだい。舐めるのも大概にしろってんだ」
悪態をついた視線の先には、ワシの愛剣が置いてあったよ。




