507 狂った常識
「どうした! 何が、って、どういうこった?」
オレが部屋に駆けつけっと、町の男達が床に倒れ伏していたぜ。部屋の中央ではアクアとエリスが背中合わせに武器を構えている。
「ワイズたいへんだよ。エリスが男共に夜這いをかけられちゃった」
「アタシだけのせいにしないでよ。アクアだって襲われてたじゃないの」
女が二人だけだってのにいきなり姦しいぜ。こいつら余裕だな。
「まっ、夜這いって言い方はともかく襲われたってわけか。んで、コイツらは生きてんのか」
倒れ伏している男共を見やりながら尋ねる。呻き声やら荒い息やら聞こえてっから心配はねぇだろうけども。
「一応手加減しといたよ。町の中だったし、手慣れてなかったし」
「町に入ってから嫌な視線は感じてたけど、まさか初日に襲われるとは思わなかったわ」
「とんだ初夜になっちゃったね」
「意味違うから!」
腰に手を当てながら文句を言うエリスだったが、アクアのとんでも発言に声を荒げた。
「うっ、うぅ。女のくせにふざけんな。女は逆らわずに男の命令に従ってりゃいいだけの生き物だろうが。勝手にたてつくんじゃねぇ!」
アクアとエリスが平和に混としていたのが気に食わなかったのか。倒れていた男の一人が胸に手を当てながら怒鳴り散らしてきた。
勝手に襲いかかって返り討ちにあっただけなのに、かなり都合のいい物言いだな。コイツには思い遣りとかねぇのか?
不審に思いながら最初に発言した男を見下してたら、次々に他の男共も声を上げだしたぜ。
「男に逆らう女なんておかしいだろぉ。どうして黙って襲われる簡単な仕事もできないかなぁ」
「オレ達が叩きのめさせるなんておかしい。ムチ打たれて身体を震えさせるのは女の役目だろぉがぁ」
「女ぁ、抱かせろぉ。抱き回させろぉ」
なっ、なんだコイツら。いくら何でも女を下に見過ぎじゃねぇか。執着ってぇか、怨嗟が狂いすぎてて見るに堪えねぇ。
「おいおいオメぇら。オレも男だからかわい子ちゃんにお近づきしたい気持ちもわかるけどよぉ、もうちょっと気遣いとか優しさってのがあってもいいんじゃねぇか」
「はっ、女を気遣うヤツなんてこの砂漠いるはずねぇだろ。女は黙って男に従われるのが常識じゃねぇか」
「だというのに勝手に攫われていなくなりやがってよー。メシは誰が作んだよ。洗い物は? 掃除は? 部屋が汚くなる一方じゃねぇか」
呆れてものも言えねぇってのはこの事か。ムチャクチャ依存してるくせに労りもしてねぇじゃねぇか。この国はどうなってやがる。
「ワイズって酷いぐらい女にだらしないって思ってたけど、コイツら見てたらかわいく感じてきたわ」
おい待てエリス。自覚があっから否定も出来ねぇけど、その言い草は酷くねぇか。
「正直殺そうかどうか迷ってるんだけど、ワイズはどっちがいいかな?」
「聞かずに生かしてやれ。ジャスは憔悴しきってるせいか起きてこなかったけど、ここで殺したら余計関係がこじれちまうぞ」
アクアは日常会話のように人を殺すって言わないでくれ。今回はオレの言葉を聞いてくれるみたいだからいいけども。
頭を抱えてっと、ドアの方からノックが聞こえてきたぜ。




