505 忠告の駄馬
「クミン!」
あんニャロー。一体どこから沸いて出てきやがった。
ボディに拳をもらったクミンはクタりと脱力している。
「おっと、レディに砂をつけるわけにはいかないな」
シャインが丁重にクミンを肩に担ぎ上げ、ついでとばかりに大剣も拾う。
「アクアに吹き飛ばされてからすぐに駆けつけたのだがね、まさかのお取り込み中で驚いたよ。けど賊に気を利かせるつもりもないので割り込ませていただいた」
「女ぁ、女を寄越せぇ!」
余裕を見せるシャインを隙だらけとみたのか、賊が後ろから襲いかかる。
「邪魔だ。お前らにレディは似合わない」
目にもとまらぬスピードで大剣を振り回し、賊を力業で潰して吹き飛ばすシャイン。
「不快だね。汚らしい血でクミンの大剣が汚れてしまったではないか」
「クミンをおいてって貰うよシャイン」
賊に気をとられている隙を突き、アクアが飛び込む。容赦なく突き出されるトライデントを、シャインが跳び退いて躱す。
「おっと。嫉妬しないでくれたまえアクア。一緒に愛の巣へ連れていきたい気持ちもあるが、三人同時は荷が重そうでね。先行してクミンだけを連れていかせて貰うよ」
「ざけんな、待ちやがれ!」
叫びに合わせて魔法をぶっ放せれたらどれほどよかったか。オレの魔法じゃクミンを巻き込んじまう。
「任せてワイズ。クミンは渡さない」
エリスが矢を放つものの、危なげなく回避をするシャイン。わかっちゃいたが遠距離じゃ不利だ。人質を奪い返すなら接近戦を仕掛けなきゃいけねぇ。ってのによぉ。
ジャスが放心しちまっててまともに動いてねぇ。今クミンを連れてかれるわけにはいかねぇんだよ。
「クリエイトアイス!」
とっさに檻を模った氷を造って、クミン諸共シャインを閉じ込める。
この砂漠で氷属性がどれほど不利に働くかはわかんねぇ。少しでも足止めが効いてくれ。
「ほぉ、ヤローのクセしてクミンと二人きりの空間を造ってくれてるとはね。なかなか雰囲気作りが上手ではないか。がタイミングがよろしくないな。ふんっ!」
シャインがしたり顔で語ると、無造作に大剣を振り回して氷の檻を粉微塵に吹き飛ばす。
クソっ、止まらねぇ。
「ではそろそろお暇しようか。別れの忠告をしておこうアクア。この砂漠にレディは危険だ。どこにいても用心しておきたまえ。ではさらばだ。はーっはっはっは!」
高笑いしながら背を向けて去って行くシャイン。馬の身体だけあって恐ろしい撤退速度だ。
「待ちなさいよっ。コラーっ!」
エリスが矢を放つも、悪あがきが届くはずもなく逃げられてしまう。
「クミン? 何が、何が起こった?」
賊の無力化はできたってのに、まんまとクミンを連れ去られちまった。タイミングの悪さと展開の早さのせいで、ジャスの理解が追いついてねぇのも痛ぇ。
「腹立つわね。最後までふざけた事言ってくれて。何が砂漠にレディは危険よ。誰だって砂漠は危険じゃないの」
弓をしまいながらエリスがグチると、オレの隣に降りてきたぜ。アクアも馬車まで戻ってくる。
「どうなんだろ。シャインの言ってる事って基本トンチンカンなんだけど、なんか含みがありそうなんだよね」
「気のせいよ、気のせい。行きたくないけど愛の巣まで急ぐ理由が出来ちゃったわね」
「ンだな。悪ぃけど二人とも馬頼めるか。ジャス休ませてやらねぇと町まで辿り着けねぇぞ」
オレは仕方ないという嘆息を背中に受けながら、砂漠に立ち尽くすジャスを迎えにいったぜ。




