504 バカ再び
アクアのヤツ、殺りやがったね。
下卑た賊を大剣で無力化しながら、砂漠に舞う流水と鮮血を眺める。アクアが容赦なくトライデントを振るう度に、賊に深々と致命傷が刻まれ倒れた。
「やめろアクア! 相手は人間だぞ」
「それがどうしたの。敵って事には変わりないでしょ」
激高するジャスに対して、どこまでも平然とした態度でアクアは賊を斬る。
「ふざけんな! 第一なぜアクアが戦っている。お前が戦うのはタカハシ家と対峙した時だけだったはずだ!」
「基本的にはね。けど私が直接襲われたとなったら話は別だよ」
「馬車の中に隠れてれば狙われなかっただろうが!」
「時間の問題だったと思うけどな。それに何もしないで命をあげられるほど、コイツらに心を許してないもん」
ワシらの防御は突破されていた。だからアクアの言っている事はもっともだ。けど人殺しを許すにはジャスが潔癖すぎるんだよ。
「だとしても無力化するだけで充分なはずだ。むやみに殺す必要はない。話し合えば改心だってしてくれるかもしれないじゃないか」
「さすがにちょっと考えが甘すぎないかな。下手に手心を加えた結果、身内が死んじゃったら元も子もないよ。命の優先順位ってあると思うし」
「誰の命も平等に決まってるだろ! 上も下もない!」
キッパリと断言するジャスへ、納得いかないようにアクアが唸る。
「私が賊を殺さなかった結果、賊がロンギングの兵達を殺すかもしれないって話なんだけどね。正直私、少しは情が移ってるんだよね。ジャスの為についてきてくれた兵と、襲ってくる賊の命はホントにイコールしてるの?」
純粋な疑問をぶつけられて言葉に詰まるジャス。
「死ねぇ! へぶっ」
ジャスの後ろから斬り掛かってきた賊に、ワイズが風魔法を放った。
「呆けてんじゃねぇぞ。話は賊共を片付けてからだジャス。おいジャス!」
マズいね。ワイズの声が耳に届いてないじゃないかい。世話が焼けるよ。
呆然と立ち尽くすジャスの手助けに向かいたいところだけど、コイツら数が多くて嫌になるよ。棒立ちのジャスにまた賊がっ。
シミターが振り下ろされる瞬間、賊の胸に矢が突き刺さり倒れる。
「あっ、え? エリスっ!」
矢を受けて息絶えた賊を暫く見下ろしていたジャスだったけど、誰が何をしたかに気付いて馬車の上を見上げた。
エリスはマントをはためかせながら、矢を放っては賊を射殺していく。
「止めるんだエリス。殺しちゃダメだ!」
「エリスも思い切るね。けど大丈夫? 同族どうしの殺しって結構メンタル来るみたいだけど」
行動そのものを止めるジャスと、エリスの心を気遣うアクア。
「アクアにばかり重荷を背負わせるわけにはいかないじゃない。それに、襲ってくるなら魔物も人間も一緒よ。不殺なんて生半可な覚悟じゃこの戦いについていけないわ」
毅然とした態度で言い放つエリスに対し、ジャスが顔色を悪くする。
あぁもぉ。エリスの覚悟が決まったのはいいよ。立派な冒険者に育ったさ。けどチームワークがボロボロじゃないかい。
ワイズに視線を向けると、引き攣った顔が返ってきた。
そうさ、ワシもワイズも知ってんだ。ジャスが人を殺す事を極端に嫌っている事ぐらい。長い付き合いだからね、リーダーのポリシーはチームで尊重すべきところなんだよ。
チっ。早く仲を取り持たないと崩壊しかねないじゃないかい。
とにかく早々に賊を片付けて、落ち着かないと。
焦りつつもワシの受け持つ賊を無力化する。
よし、後はジャスのところへ行って。
「また会ったねクミン」
大きなシルエットが、耳障りな声と一緒に背中から覆い被さってきた。
「なっ、ガハっ!」
振り向きながらシャインの存在を確認しようとした瞬間、ボディに鈍い一撃を受けちまった。息がっ、意識が……。




