502 対立の溝
「まさか砂漠のど真ん中で出迎えてくれるとはよぉ。しかも単身かよ」
ワイズが立ち上がり、杖を突き出しながら毒突く。今までのタカハシ家に町中でお話しをしにきたのはいても、道中で奇襲を仕掛けてきたのはいなかった。
「つれないではないかクミン。砂漠に入ったらミーを呼ぶように言っておいたのに。おかげで出迎えが遅れてしまったよ」
あまり思い出したくないが、ソル・トゥーレでそんなバカげた事を言っていた気がする。まさか本音だったとは。
「呼んでもないのに来ないでくれないかい。戦いには覚悟っていう心の準備がいるんだよ」
「サプライズで心をドキドキさせてくれたのなら出迎えに来た甲斐があるというものだよ。さぁ、エリスとアクアと一緒にミーの愛の巣へ行こうではないか」
「お断りだし出向きたくもなくなったよ!」
クミンは馬車から跳び出して砂漠へ足をつけると、大剣を構えてドッシリと待ち構える。
愛の巣って言うのはアレか? ひょっとしてシャインの魔王城の名称なのか? だとしたら碌でもない事この上ない。早く崩壊させなければ。
ボクも剣を抜きながら砂漠へと跳び出し、クミンの前に立つ。足が砂に埋もれるが、そんな事を気にしている余裕はない。
「レディ達との逢瀬に割り込むな。消えろ」
ボクを視界に入れた瞬間、シャインは声色を冷たくさせて底冷えするほどの殺意をむき出しにする。
まだ距離が離れているというのに鮮明に浮かび上がる死のビジョン。ふざけた空気が一瞬で切り替わり、足が震える。
呑まれるな。気をシッカリ持て。命の危機なんてコレまで何度もあったじゃないか。
己を叱咤しながらシャインを睨み付けていると、間に青色の影が降り立った。水を纏ったトライデントを手にている、華奢な背中が目に入る。
「おぉアクア。なんと傷ましい頬をして……」
「カジキっ!」
アクアを見かけ、緩みきった表情で両手を広げるシャイン。へ初手からブレイブ・ブレイドに匹敵する最強のカードを切った。
「ノォォォォォオっ!」
防御する間もなく、無抵抗の状態で真正面からアクア渾身の突進突きを受けたシャイン。まぬけな悲鳴を上げながら遙か彼方へと吹っ飛び、視界から消え失せる。
あまりの出来事に口をポカンと開けてしまう。たぶんクミンとワイズも同じ顔になってるだろう。
「まったく。ジェット・スティ○グレンみたいに道中でいきなり出てこないでよね」
やれやれと溜め息を吐きながら文句を漏らすのはいいけど、知らない人を例に挙げないでほしい。
「びっくりしたよねジャス。シャインは男には容赦ないから気をつけた方がいいよ。たぶんまた来るから」
アクアはトライデントを消してクルリと振り向くと、何の隔たりもない笑顔で無警戒に近寄ってきた。気が抜けていた腕に、再び力がこもる。
近付いてくるな。射程に入ったら斬るぞ。
視線に殺意を込めてアクアを睨み付けていると、ボクの足下にザクりと矢が突き刺さった。振り向いて見上げると、馬車の上で矢を向けながら、エリスが見下ろしていた。
無言の視線が詰問してくる。今、何しようとした、と。
「もー、ダメだよエリス。仲間同士なんだから仲良くしないと」
アクアが文句を言うと、顔をプイッと逸らした。
「ジャスもだよ。危機は去ったんだから危なっかしい物をしまいな」
クミンがボクの右肩をポンと叩きながら諭す。渋々鞘に収めると、エリスがアクアの傍まで飛び降りてきた。
「行こう、アクア。見張りはクミン達に任せて、アタシ達は中で休むよ」
「あちょっと。ゴメンねジャス」
エリスに腕を引っ張られながら、アクアは申し訳なさそうに馬車の中へ戻って行く。
「ジャスも戻ってこいよ。馬走らせねぇと町まで辿り着けねぇぜ」
「……そうだな」
胸にモヤモヤを抱えながら御者台へと戻る。仲間内でありながらずっとギクシャクした関係を続けていた。
なんとかしなければいけない反面、ボクの方から折れる事がどうしても出来ない。漠然とした不満と不安が胸中に渦巻き続けていた。
そういえばアクア、また来るって言ってなかったか。
更なる不安要素が積み重なってしまった。




