501 砂漠でのお出迎え
ソル・トゥーレでエアと死闘を演じてから一ヶ月。ボクたちは、砂漠へと足を踏み入れていた。
昼間は灼熱と化した太陽が肌を焼いては水分を奪い、夜は凍てつくような空気が体力を奪う。
ただでさえ環境が過酷なのに加え、ハゲタカやサソリ、アリジゴクといった魔物の撃退もしなければならない。
死傷者こそ出していないものの、疲労は早くも極限状態だ。特にロンギングの精鋭達がバテてしまっている。
どんな場所でも戦えるよう訓練されているはずだが、実戦となるとやはり違いが大きく出るのだろう。
唯一ありがたい事があるとすれば、アクアの存在だった。水を出せる事がなによりの救いであり、同時に生命線にもなっている。
ボクはフード付きの茶色いマントを被りながら、馬車を引いていた。見渡す方向全てが砂の海で、遠くが揺らいで見える。
「どうだぁジャス。なんか変わりあっか」
右隣で同じくフード付きマントを被っているワイズが、ダレた様子で確認をとってきた。左隣には同じ姿のクミンも見張りについていた。
「見ての通り何もないよ。それよりワイズ、町への方向は確かなのかい?」
「進む方角を見る魔法は専門外だが、問題ねぇよ。地図通りに進んでんぜ」
ワイズがそう言ってくれるなら安心だ。立っている位置も方角もわからない砂漠で彷徨ってしまっては一巻の終わりだからね。
「早いところ町に着いて休憩を入れたいところだね。折を見てエリス達と話し合いもしないといけないよ」
クミンが鋭い視線をボクに突き刺してくる。
ボクはここ一ヶ月ほど、エリスとアクアと碌に会話が出来ていない。ボクの方が避けている。
アクアを見かける度に殺意が湧いて仕方がない。剣をとってしまった事も何度かあるくらいだ。対してアクアが普段通りなのも癇に障った。
エリスに関してはただただ気まずい。アクアを殴り飛ばした事が怒りに触れたらしく、一方的に敵視されてしまった。
しかもその時に出来た頬のアザが今でも消えていない事で、余計に気を悪くしてしまっていた。
「話し合って、何になるっていうんだ。いくら言葉にしたところでアクアは変わってくれないし、エリスには謝罪を受けいれてもらえない」
視線をまっすぐ向けたまま胸の内を吐くと、両隣から溜め息が返ってきた。
失礼な反応をしてくれる。溜め息を吐きたいのはボクの方だって言うのに。
「ん?」
真正面から土煙を確認する。
土煙は徐々に大きくなってくる。よく見ると馬が向かってくるところだった。
「おいおい随分馬をトバしてくるくるじゃねぇか。そんな急いでどこへ……ってオイ!」
ワイズが驚いて身を乗り出すと、クミンが大剣に手をかけた。ボクも馬を止め、剣に手を伸ばす。
「はーはっはっ。このミー自らがお迎えに上がったよレディたち。さぁ、一緒に行こうか!」
近付いてきたのは馬ではなく、人馬状態で高笑いする魔王シャインだった。




