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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第8章 色欲のシャイン
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495 落差の比較

 エアのやる気が再燃したところで晩飯を再開。したんだけどエアが食べさせてほしいなって、俺に甘えてきやがった。

 立派に勇者と()り合ったってのに、キラキラした眼で園児(えんじ)みたいに甘えてきやがって。

 しょうがねぇからフーフーしながら食べさせてやったぜ。

 グラスは温かい眼で見守ってるし、フォーレはニマニマと満足そうに(めん)(すす)ってるし、ヴァリーは恨めしそうに睨んでくるし、シャインは床で伸びてるし。

 そしてチェルは物憂(ものう)げに赤い瞳を伏目(ふしめ)にしていた。

 いつもより長めの晩飯が終わったら、後は風呂に入って寝るだけだ。

 一番風呂はヴァリー。遺憾(いかん)なく末っ子のワガママを発揮させる。

 続いてエアとフォーレが一緒に入る。今のエアが一人で風呂に入るのはキツそうだからと、フォーレがフォローに入った。

 次に俺。娘達の残り香が漂う浴室で、とっぷりと湯船に浸かる。

 転移する前の風呂って何の香りもなく、ただ温かい湯を楽しむだけだったんだけどな。色んな意味で落ち着かないが、悪くもない。

 イッコクに飛ばされなければずっと、無味無臭の風呂に一人で浸かり続ける人生だったんだろうな。彼女を作るどころか出逢う事も出来ないまま、歳だけをひたすらにとり続けて、ムダに多い仕事でただただ寿命を削り取られる。

 順当に生きて、いや社会にむりやり生かされていたらそんな寂しい人生を歩んでいただろう。楽しみがない代わりに、無念も少ない。

 けど今は大家族の長で魔王なんかもやっている。最愛の女性が隣にいて、俺を愛してくれるたくさんの子供達に囲まれている。生きる活力が湧いてくるし、幸せってヤツを感じていられる。

 同時に失う代償もデカくなっちまってた。

 一つ失って出来た穴が、底が見えないくらい深くって延々と塞がらない。不意に覗き込んじまったら、失った思い出が蘇ってきちまう。

 幸せだったと気づかされ、幸せだった分の虚無感(きょむかん)が襲いかかってくる。

 エアに虚勢(きょせい)を張ったはいいものの、情けなくてしょうがねぇ。今手元に残っている幸せが、怖くて怖くて堪んねぇ。

 幸せって泥沼に沈んじまいそうだ。いっそここで沈んじまえば、恐怖を感じなくなれるんじゃないか。

 揺れる湯船の表面が、俺を誘っているように見えてきた。

 コンコン。

 ノックの音にハッとし、ドアの方へ振り向いた。磨りガラス越しに肌色の人影が映る。(ひら)くと逞しい体付きの息子が入ってきた。

「おいおいどうしたグラス。まだ俺は湯を楽しんでるぞ」

 俺の言葉が聞こえてねぇのか、無言のまま入ってきては湯船に腕を突っ込んでくる。

「長湯が過ぎますよ父さん。すっかりぬるくなっているじゃないですか。温め直さないと」

 グラスが俺に見えない魔力ってヤツを浴槽に注いだのだろう。じんわりと熱が帯びるのを感じ取る。ってか、ホントに冷めてたんだな。

 そして俺がいるにも関わらず、グラスは自身の身体を洗い始めた。

「なぁグラス。どうしてまだ俺ここにいるぞ」

「チェル様が父さんから目を離すなと言われました。お風呂にもついてやれと。それにただお世話をするだけよりも一緒に入った方がスキンシップが取れるだろうと思っただけです」

「チェルのヤツ、俺をなんだと思ってんだよ」

 浴槽の縁に組んだ両腕にアゴを乗せて毒突く。頭に浮かんだ介護って文字は気の迷いだと信じたい。

「そう思うなら一人で風呂から出てきて下さい。のぼせてしまうじゃないですか。ちゃんと身体は洗いましたか」

「……」

 そういや洗ってなかったなと思い出し、何も言えないまま視線を逸らす。でっかい溜め息が返ってきた。

「後で背中ぐらいは流してあげますから、俺が洗い終わるまで待ってて下さいよ」

 背中を流してもらうような歳じゃねぇんだけどな。けどまぁ、息子に背中を流してもらうのもたまにはアリか。

「ありがとな。俺もグラスの背中、流してやろうか」

「じゃあ、次の機会にお願いします。約束ですよ」

 息子(グラス)に約束を取り付けられちゃしょうがねぇ。守んなきゃな。

 その後は加減を知った丁度いい力加減で、背中を流してもらったぜ。

 幸せがまた一つ、増えちまったな。

 風呂から出るとシャインが復活していた。死んでほしいわけじゃねぇけど、毒でも死なないんだなコイツ。

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