494 親の願い子の想い
「なんと嘆かわしい事に。その手では食事をするのも一苦労ではないか。仕方がない。ミーが手ずからうどんをフーフーして食べさせてあげようではないか」
なんかシャインがバカ面下げてウチに近づいてくるんだけど。誰か止めてよ、ねえ。まさかここに来て一番握力を失った事を悔やむ事になるなんて。
フォーレがやれやれと言った感じに溜め息を吐くと、白衣のポケットから布と瓶を取り出した。布に液体を染みこませるとシャインの後ろに回り込み、布で口を塞ぐ。
「うっ! ぅぅ……」
口を塞がれたシャインが一瞬で気を失い、床へ寝転がった。
「凄い効き目だねフォーレ。クロロホルムってやつ?」
「違うよぉ、猛毒ぅ」
「おまっ、食事の場で使用していい道具じゃないだろ」
グラスが若干ひきながらつっこんだけど、フォーレは何食わぬ顔で食事を再開した。まぁ、シャインの事だから暫くしたら復活するでしょ。
にしてもフーフーして食べさせてもらうか。まるで雛鳥だね。父ちゃんにだったらやってもらいたいかも。けどそれは後だね。
「正直シャインにも聞いててほしい話だったけど、こうなっちゃったらしょうがないや。父ちゃん、ウチね……」
この戦い、降りてもいいかな。そう続けたいはずの言葉が詰まって、視線を下げてしまう。
「続けてぇんだろ」
「えっ?」
視線を上げると、ムリして作った父ちゃんのしたり顔と目が合った。
「俺はな、エアが無邪気に飛び回る姿が好きなんだ。人生楽しんでるなって伝わってくるからよぉ。だから見せてくれよ、俺に、エアの自由な空を」
半分ムリしてる。足の方からカタカタ聞こえるし、やせ我慢の度合いが半端じゃない。けど、もう半分は本当に望んでくれてる。父ちゃん自身が、ウチの自由を望んでる。
「まっ、ホントに戦うのが嫌になったってんなら、俺が守ってやる。一度命賭けたんだ。みんなだってなわかってくれるさ。けど、燻ってんだろ」
ズルいよ父ちゃん。最後にチャーミングなウインク投げてくるなんて。おかげで心に作った鳥かごから飛び出しちゃったじゃん。
「ウチ、飛びたい。まだ飛んでいたい。だからもう一度出かけるね。父ちゃんには寂しい思いさせちゃうけど、目一杯飛んでくる」
「俺が寂しいとかいっちょ前な心配すんじゃねぇよ。子供は巣立ってなんぼだからな」
ホントはずっと囲ってたいクセに。ムリしちゃうんだから。だから大好きだよ。
「よしっ、がんばらなくっちゃ。シャインに貸しもあるしね」
「エアってばわがままで往生際が悪ーい。どうせ再戦するなら今度こそ死んじゃってよー」
せっかく気合い入れたのにヴァリーってば。デッドが死んでから何かを拗らせちゃってるんだよね。
「あははっ。それよりグラス、手を使わない武器ってなんか思いつく?」
ブレイブ・ブレイドの衝撃でウチは武器を失っちゃってるからね。戦力の足しになる何かが欲しい。
「パッとは思いつかないな。武器とはどうしても手で持たねばならん」
「んー、アイススケートなんかはどうだ。アレなら手を使わないだろ。レイス○ンとかさ」
グラスが真面目な顔で首を横に振ると、父ちゃんが提案してきた。
「アイススケートね。うん、ダメ。パッとしない。第一氷属性じゃないと有効活用出来なさそうなんだよね。どうしても地形に足を引っ張られちゃうから」
ホント、手さえ無事だったら斧やハンマーと言った豪快なパワー武器をブン回してるところなんだけどね。
「風を有効活用してぇ、エアでも持てる武器かぁ。やっぱりカードかなぁ、トランプなんて丁度いいかもぉ」
フォーレが口元に人差し指を当てながらニマリと微笑む。
「カード、カードね13×4+ジョーカーで、弾数53か」
「弾数が少ないならぁ、雀牌でもいいかもぉ」
「いや持ち運びが不便すぎるからね」
「立直とか言いながらぁ、額に点棒を突き刺すとかおもしろそぉなのにぃ」
それ立直がトドメになってるから。おもしろいかもしれないけど、風の有効活用なんてできそうにないからね。
「仕方ない。無難でおもしろくないけど、雀牌よりかはカードの方が戦えそうだからカードにするよ」
暫くは特訓しないとだね。アクア達がデザート・ヴェーに着くまでに物にしなくっちゃ。




