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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第8章 色欲のシャイン
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493 握力

 父ちゃんに泣き付かれちゃって、フォーレに手当てをしてもらって、お部屋でのんびり休んでいたら晩ご飯の時間になってた。

 今回の食事当番はグラス。

 ダイニングにあるテーブルの上で、重そうな陶器のドンブリが湯気を出している。お醤油の香りも部屋に充満してるね。

「おいしそ。今日はおうどんなんだね」

 テーブルの中央には削り節とかき揚げが盛ってあった。好きに摘まんでいいみたい。

 山盛りの削り節を握り、目一杯うどんへ放り込む。踊ってる踊ってる。香りが一段と優しくなったように感じる。

「勇者と戦ってボロボロになったんだ。食事ぐらいは用意しないとな」

「ありがと、グラス」

「ミーも死ぬような思いをしてきたのだがね。どうしてレディの丹精(たんせい)込めた料理でなく、無慈悲な男飯が出てくるのか理解に苦しむよ」

 シャインが残念な顔して首を横に振ってる。言い分は解らなくないけど、ケンカを売るような態度はよくないと思うな。ほら、みんなから冷たい視線が刺さってるし。

 丸眼鏡をかけてるフォーレが眠そうに箸を掴み、ヴァリーが恨めしそうな雰囲気でウチをウーっと睨んでる。

 チェル様と父ちゃんも一緒の晩ご飯だ。やっぱり、父ちゃんやつれてる。

「父さん。お身体の方は大丈夫なんですか」

「ちょっと感極(かんきわ)まって泣いちまっただけだ。寝込むほどじゃねぇよ。それより早く食おうぜ、伸びちまう前によぉ」

 開いたり閉じたりして箸先をチャキチャキ鳴らしながら、父ちゃんが促す。みんなでいただきますをして、うどんをズズっと(すす)り始めた。

「はぁ、おいしぃ」

「おやおやフォーレ。メガネが曇ってしまっているよ。かしたまえ。ミーが直々に拭いてあげようではないか」

 伊達メガネが曇ったぐらいでシャインが面倒な事言ってる。フォーレは気にも止めてないみたいだけれど。

「おつゆの味に深みが増していてね。たいした腕よ、グラス」

「お褒めいただき光栄です」

「チェルはいちいち味の感想が上品だしグラスも堅ぇよ。もっと砕けた感じに、うめぇでいいじゃねぇか。ん、どうしたエア。箸が止まってるぞ」

「うん、そうだね」

 食事風景を眺めて現実逃避してたけど、そろそろ覚悟を決めなくっちゃ。

 箸を持ち、うどんを掴んで、持ち上げる。カランっ。

「あっ」

「どうしたエア。箸を取り落とすなんて」

「何でもない何でもない。あっ」

 再び箸を掴んで持ち上げようとしたんだけど、やっぱり箸を持っていられなかった。

「エア? ……まさか」

 グラスが声を上げるまでもなく、みんなから注目された。観念(かんねん)しよっか。

「ブレイブ・ブレイドをむりやり掴んだのがよくなかったね。勇者の力って言うのかな、対魔王特攻がついた必殺技だけあるよ。フォーレの治療を受けても腕の感覚が戻らないんだもん。戻りそうな気配もない」

 包帯に巻かれて腕を見せながら溜め息を吐いたよ。あーあ、空気が重くなっちゃった。

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