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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第8章 色欲のシャイン
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492 命のぬくもり

 軽くてね。

 泣き疲れて気を失ったコーイチを抱き上げた際に感じた。

 (ゆる)みつつもやつれた身体はどこまでも頼りなくて、少し力を込めれば折れてしまいそう。

 身体も、心も。

 みっともない見栄っ張り男を、柔らかなベッドへゆっくりと下ろす。涙が乾いた跡を頬に残しながら、スースーと寝息を立てているわ。

「コーイチ。アナタは七年前に拾ったあの時から変わらなくってね。情けなくて軟弱なまま」

 頬を撫でると、短く剃り残していたヒゲが手に引っかかる。手入れの行き届いていないところがだらしない。

 何かを貫き通す意志もなければ、己を高めようとする気高さもない。ただ気弱で、言う事を聞かせるには都合のいいお調子者だった。

「けど、優しさだけは人一倍強かったわね。それしか誇れるものもないクセに」

 色にボケたヘタレなクセして、痛みを代替わりする意地だけはむやみに強いのだから。

「だから私も、いつの間にか頼ってしまっていた。コーイチの弱さから目を逸らしながら、背でもたれかかっていた」

 コーイチからしたら(おとこ)冥利(みょうり)に尽きるのかもしれないけれど、私は背負っている物が重くてよ。

「ましてやコーイチは、貧弱なのだから」

 優しさと愛が強い分だけ、失った時の打撃が大きくなる。デッド、シェイと致命傷を二連撃で食らっていた。

 コーイチが平気であるはずがなくってね。

「そして、三発目の致命傷を回避した事で、生きているという安堵をこれでもかと実感してしまった。倒れない方がおかしくてね」

 いつからこのかっこ悪い男に、安心感を覚えてしまっていたのかしら。

「やっぱり私も悪い女だわ。それこそ魔王(クラス)に。死んでしまうほどボロボロのコーイチを、死ぬまで()き使おうとしているのだから」

随分(ずいぶん)しおらしいじゃねぇかチェル。もっと女王様(ぜん)としててくれなきゃ、俺の調子が狂っちまうだろうが」

 いつ意識が戻ったのかしら。コーイチは目を(つむ)ったまま、弱々しい声で威勢を張る。

「コーイチ」

「それに魔王は俺だ。俺なんだ。今更チェルに返すつもりはねぇ。ちっと情けねぇトコを見せちまったかもしんねぇけど、俺はまだまだやれるぜ」

 もう、虚勢(きょせい)だけは一人前の小者なんだから。

「ムリしなくてもよくてよ。コーイチが情けないのはいつもの事なのだから。だから今は余計な事なんて考えないで休んでしまいなさい」

「おいおいヒデぇな。傷ついちゃうぞ」

「勝手にほざいていればよくてよ。ただもし望みがあるならお願いする事を許してあげるわ。私にどう癒やしてもらいたいか言ってみなさい」

 ほんの少しならサービスしてあげなくもなくてよ。そうしないと消え入ってしまいそうだもの。

「出血大サービスじゃねぇか。だったらよぉ、手だけ繋いでてくれるか」

「手?」

「今は、命のぬくもりを感じ続けていてぇ」

 バカね。意地を張っておきながら弱いところがダダ漏れじゃないの。仕方なくてね。

 膝立ちになりながらベッドの上へ乗り込み、枕を取っ払って私の膝をコーイチの頭の下に差し込んだ。

「ハっ。気前がいいじゃねぇか。膝枕なん子供の頃に母さんにやってもらったキリだぜ」

「今更ながら寂しい人生を送っていてね。恋人がいなかったと白状したような物よ。同情してあげるからそのまま休んでしまいなさい」

「意識を保ったまま五感に刻み込みてぇとこだけど、眠さにあらがえねぇわ。おやすみ」

「おやすみ」

 おでこを撫でてあげながら、コーイチが寝息を立てるまでじっくりと待ったわ。トクトクと速まる心音が、少しだけ心地よかったのがちょっぴり悔しくてね。

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