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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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48 男の子のお話

 テレビ画面では亀の胴着を着た主人公が空中からかめ○め波を放っていた。

 食い入るように視聴するのはグラスとデッド。俺とシャインは遠目から眺めている。

 チェルと娘たちはお風呂に入っているところだ。

「いけっ、そこだ!」

「きひっ、後悔させてやれ!」

 グラスもデッドも握りこぶしを振りまわしながら、主人公に声援を送っている。

 マイルームのアニメ視聴はたちまちモンムスたちで流行りとなった。

 ただ、パソコンのデスクトップだと画面が小さい。だからゲームの据え置き機からネットに繋いで、液晶テレビでアニメを楽しむようになっていた。

「グラスとデッドは戦闘物のアニメが好きだよな。どんなところが好きなんだ」

「やっぱり強くなって、敵を倒すところですね。努力で確実に力がつくところも好きですよ」

「僕は弱い相手を圧倒的な力で捻じ伏せるところが好きだぜぇ。きひひ」

 二人とも理由は違うが、熱意は本物だ。テレビ画面から視線を外さずに答えた。一瞬たりとも主人公の活躍を見逃してたまるかと背中が語っている。

 やっぱり男の子だな。強さに憧れを抱く。俺も子供のときは意味もなく最強を目指したっけ。テキトーな木の枝を剣代わりにブンブン振って。

 微笑ましい光景に、懐かしい記憶が蘇ってきた。

「いろんなアニメがあるけどさ、やっぱり戦うアニメが一番好きなのか」

「はい。俺もいつか最強になって、父さんとチェル様を勇者から守り切るんだって気持ちになります。気とかはよくわからないけど、きっと魔法で代用もできると思うし」

 グラスはまっすぐなこった。でも、聞き捨てならないことを言わなかったか。気を代用って、子供の戯言で終わらない気がするのがとても怖いんだけど。

「きひっ、僕も格闘物は好きだぜ。でも、どっちかってぇとロボット物の方が好きだ。ガン○ムとか。合金とか機械とかは詳しくわからねぇけど、魔法をエネルギーにして動ける機体を一機は造りてぇぜ」

 ロボット物か。ロマンがあっていいね。けど実勢に作るのは勘弁してね。イッコクに宇宙とかSFとかは早すぎるから。まだ車とか電車もないはずだし。

「えっと、シャインは格闘物に熱を注がないよな」

 俺の隣では、シャインが遠い目をしながらテレビ画面を眺めている。

「どうしてミーがむさ苦しいアニメを楽しまなきゃいけないのさ。くだらないね。アニメでおもしろいと思ったのはアレだよ。主人公が女の子しかいない島に流れ着いて生活していくアニメ。あの島は天国だね。主人公と変わりたいぐらいだ」

 シャインは脳内でアニメを流しだしたのか、手を胸の前で組んで黒い瞳を輝かせた。

 主人公がハーレム物のアニメかよ。何気に一番、俺に近い趣味をしてやがる。ただなシャイン。お前はその手の主人公になれないし、なってはいけない存在だぞ。

 シャインを複数の慕っているヒロインたちと一緒に、箱庭へ詰め込んだ世界を想像した。どことなく戦慄を覚える。すぐさま箱をガムテープでガッチガチに蓋して、記憶のゴミ箱へ放り込んだ。

「そういえばヲタクが自転車で走るアニメを見て思ったんだけど、オヤジもヲタクなんだよね」

 シャインの何気ない視線が、俺の胸を突き刺した。

 うぐっ、俺が今更ヲタクかどうか問われただけでダメージを負うだなんて。とっくに割り切っているはずなのに、実の息子に問われるとまた勝手が違うとは。

「あぁ、そうだが」

 俺は胸を手で押さえたい気持ちで、何気なさを装って返答した。

「あの主人公はガチャガチャとか萌えフィギュアとかたくさん持っていたけど、オヤジは持っていないんだね。オヤジのマイルームだっていうのに、見当たらないのはなぜだい」

「そのことか。確かにフィギュアとか、○ンプラとか、ねんど○いどとかに魅力はあるぜ。そそられるし。でもな、いざ部屋に置くとなると……」

「恥ずかしいのかい?」

「違ぇよ。飾る場所がないんだよ。かさばるから買わねぇようにしてたんだ」

 部屋は広く使いたいし、布団も敷けなくなっちまうからな。ポスターなんかは別の意味で張ってない。ぼろアパートだから下手に壁に貼ると大家さんが怖かったんだよ。

「なるほど。確かにこの部屋は狭いからね。仕方ないさ」

 ほっとけ。

 耳に痛くなってきたのでアニメに集中することにする。

「ところでオヤジはプリンセス・チェルと逢引(あいびき)はしたのかい」

「なっ、ゲホッ……」

 なんってことをいきなり聞きやがる。ツバが変なとこに入って(むせ)ちまたじゃねーか。

「まったく、オヤジは慌てんぼうだなぁ」

「誰のせいだ。変なこと言いやがって」

 ユニコーンの思考には頭が痛くなるぜ。

「変なことだろうか。オヤジは逢引空間を作り出すことができるんだ。利用しない手はないじゃないか。プリンセス・チェルは人間に近い身体の構造をしているし、オヤジから見てストライクゾーンなのだろう」

「確かにチェルはかわいいけど、それとこれとは……おいシャイン。今、なんっ()った?」

「えっ、ストライクゾーンのことかい?」

「そうじゃない!」

 ダメだ。シャインと話していても埒が明かない。そうだよ、チェルは人間に近い身体つきをしているんだよ。人間でもモンムスでもないのに。魔王の娘だぞ。人間離れした形態をしていない方がおかしいじゃないか。

 疑問がコトコト煮込んでいるカレーの気泡ようにわき上がってくる。何かがわかりそうな予感がする。謎を解くスパイスはもう入っているはずなのだ。もう繋げるだけで答えにたどり着ける。なのに、その何かが閃かない。

「父さん」

「グラスか、どうした?」

「アニメが終わりました。チェル譲たちもそろそろお風呂から上がります。戻りましょう」

「きひっ、遅れるとまたチェルが不快になるぜぇ。見てる分には楽しいけどな」

 ちっ、時間切れか。

「勘弁してくれ、デッドも巻き込んでやるぞ」

「そいつぁごめんだぜぇ。ジジイ一人で受けとめなぁ」

 デッドが紫の髪を揺らしながら、逃げるように部屋を出た。

「何を考えたのか知らないけど、プリンセス・チェルとマイ・シスターたちのもとに戻るとしよう」

「シャイン。もうちょっと言い方を何とかできないのですか」

「レディに堅苦しさは似合わないさ。グラス」

 グラスとシャインも軽口を叩きながらデッドの後に続いた。

「俺も行くとするかねぇ。娘たちがアニメを楽しむだろうし、マイルームは開けておくか」

 チェルの身体のこと、スキルのこと、考えなきゃいけないことは多いな。

「お前ら、チェルたちが戻ってきたら風呂だからな。心の準備だけはしておけよ」

 問いかけると、三者三様の返事が返ってきたのだった。


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