484 クレーター
なんかソル・トゥーレに帰る途中でタカハシ家に遭遇したみてぇだが、宣戦布告だけして見逃してもらえたようでなによりだぜ。
ロンギングの精鋭を含めたこのメンツで戦ってたら、どこまで被害が大きくなったかわかったもんじゃねぇ。
オレは二日酔いでグロッキーだし、アクアもデケぇダメージ負ってるからフラフラだ。
ぶっちゃけるとオレの体調よりアクアが万全じゃねぇ方が致命的なんだよな。
ただでさえ状況は劣勢だってのに、シャインはどうやったら死ぬかわからねぇバケモンだ。あの高さから落ちて生きてんじゃねぇよバカ。
文句は尽きねぇけれど、一難去ってくれたならとりあえず御の字だぜ。
その後は特にハプニングもなく、ソル・トゥーレへと帰還できた。オレは即座に宿で休ませてもらう。
律儀なジャスは町長へ戦いの結末を説明、そして謝罪をしに出かけていった。エリスもついてったな。
っで宿の部屋には寝込むオレと、クミンとアクアが残ったぜ。
「無事に終わりはしたがよぉ、結果は散々だったな」
「シャインは無傷でエアも取り逃がしちまったからね。おまけに今でもエアの魔王城が窓から見えるときてるんだ。事実上は敗戦だよ」
「ついでにジャーレフを含む空の勇者達も助けられなかったしね。私はどうでもよかったんだけども」
アクアが忌憚なき感想を付け足したぜ。ホントそこんとこの機微が欠けてるよな。ジャスが聞いてたらまた機嫌が悪くなってたんだからな。
オレが溜め息を吐くと、クミンの溜め息も重なったぜ。
「色々と思うところがないわけじゃねぇけどよぉ、ジャスがジャーレフに入れ込んでた理由がよくわかんねぇんだよな」
「同感だね。一般市民って意味では守る必要もあるだろうけれど……そうだね、例えば血の繋がった家族のように何が何でも護りたいって程じゃないよ」
そうなんだ。ジャスだけが空回りして、大切なロンギングの衛兵をむりやり叩き起こして、準備の出来ていない状況で強攻策に出ちまったんだよな。
ジャーレフとは出合ってから一晩、それも数回一方的な会話を交わしただけだってのに。
「ジャスからしたら、なにか共感できるところでもあったのかもしれないね。よくわかんないけれども」
「オレだってわかんねーよ。なぁクミン。むかしジャスが人の死をクレーターに例えた事を覚えてっか」
「言い得て妙な例えだったね。人一人死んだらクレーターのような衝撃を受けるってヤツ」
クミンが天井を眺めながら思い出す。いつだったか忘れたけど、魔王いアスモデウスを倒す前だったのは覚えてる。そんときはエフィーも一緒に聞いてたっけか。
「え? それってつまり、その死んだ人と関わってなかったらノーダメージになるよね」
鋭いじゃねぇかアクア。真っ先にそこに気づくなんてよぉ。
「他人が死んだっていう、クレーターが出来た時の振動は感じるかもしんねぇ。けど衝撃って程トラウマは刻まれねぇ」
「薄い関わりだったら、クレーターのギリギリ範囲内の衝撃を受ける事になる。けどちょっと転んで、擦り傷も出来ないほどの痛みに留まるぐらいの衝撃だね」
「なるほど。テレビで好きでもない大物芸能人が死んだニュースが流れたぐらいの、どうでもいい衝撃って感じだね」
アクアよぉ、テレビやら芸能人やら、意味のわかんねぇ単語を持ち出すのはやめてくれねぇか。
「よくわかんないけど、そんなもんじゃないかい」
クミンもテキトーに遇いやがった。
「つまり、ジャーレフの事を入れ込んでたジャスだけがクレーター中央のドデカい衝撃を受けて、ただ知り合った程度のオレ達からすると、ちょっと揺れたな程度で取るに足りない犠牲でしかなかったわけなんだよな」
「クレーターの内と外で揺れ動く感情が全く違うわけだ。たぶんエリスだって範囲の外側だろうね」
もっと言うなら、ロンギングの衛兵達も範囲の外だろ。だからジャスから懇切丁寧にジャーレフの死を詫びられても困る事しか出来なかった。
そう考えっと、命の重さって良くも悪くも計れねぇもんだ。
後はソル・トゥーレにとってジャーレフ達の命がどれほど重かったかで、ジャスが負う傷がどう変わるか問題になんだろぉな。
ったく、頭が痛い状態で頭なんか使いたくねぇぜ。




