482 確保されていた戦利品
エアとシャインが生きているかもしれない疑惑はあるけれども、いつまでも強風が吹きすさぶ屋上に仕方がないわよね。
今回は勝てたものの、あの二人を倒し切れていないと考えると不安で仕方がない。
次に戦ってアタシ達は、勝てるのかな。
静かになった大空への塔の階段を、仲間達とゆっくり歩いて下る。
魔物が出てこないのはありがたいけれども、エアの魔王城が一向に崩れ出さない。って事は、アクアの言ったとおり仕留め切れていないって事よね。
でも姿を現さない。エアの性格から考えると、動けないほどの深手を負ってるんだと思う。少しでも戦える状態だったら迷わず飛んできそうだし。
考えながら歩いていると、下方に何やら大きい物が投げ出されていた。
「コレは、布団か?」
ジャスが訝しげに呟く。なぜこんな所にと言わんばかりだ。
黄色くて見るからにフカフカそうな黄色い掛け布団だ。階段を塞いではいるけれど難なく踏み越えられると思う。まぁとても邪魔だけども。
「おっ、よかった。残ってたぜ」
ワイズが声を弾ませ、安堵の溜め息を漏らす。
「ワイズ、この布団はなんなんだい?」
「聞いて驚け。この布団はエアが手ずから作った羽毛布団だぜ。フッカフカで温けぇんだ」
そういえばアタシ達が鳥の群れを相手に戦いながら階段登っているっていうのに、ワイズは鳥かごに囚われていたとはいえ脳天気にベッドでうたた寝してたんだっけ。
どうしよう。思い出してきたら怒りがフツフツと沸いてきたんだけど。
「エアとの戦いに駆けつける途中で、ひょっとかしたら鳥かごが落ちちまうんじゃないかって気づいてな、急いで引き返した掛け布団だけでも外に出しておいたんだ。横を見てみろよ。鳥かごなんて影も形もなねぇぜ」
ワイズが螺旋階段中央にある、何もない開いた空間を眺める。どの高さにあったかなんて覚えてないけど、鳥かごがここにあったんだと想像できた。
けどそんな事はどうだっていい。聞き捨てならない事が耳に入ってきたんだけど。
「アレかい? つまりワイズは、ワシらがタカハシ家を相手に戦っている中、わざわざいったん引き返して、その羽毛布団を階段まで避難させてから、再び階段を登ってきた、ってわけかい」
クミンがヒクヒクと青筋を立てながら、一文一文区切って尋ねた。
「鳥かごと一緒にお釈迦にするにはもったいない貴重品だったかんな。なんせエアの羽毛で作られた高級羽毛布団だぜ。この戦いの戦利品と言っても過言じゃねぇぜ」
怒りを引き立てるイキイキとしたドヤ顔。嘆息しながら視線を逸らすジャス。アクアは、おーって感じな笑顔で控えめに拍手をしている。
「エリス。ワシは生憎、強化魔法しか使えなくてね。代わりに燃やしてくれないかい」
無言で鏃に火がついた矢を番えながら、念のために確認する。
「燃やすのは布団とワイズ、どっち?」
「ワイズと言いたいところだけど避けられそうだからね、布団の方で」
「待て待て待て、ガチで貴重品なんだかんな。これ以上の寝心地なんて存在しねぇぐらいなんだ。おめぇらも使ってみると寝心地の違いがわかっから、早まったマネは……ひぃ!」
ワイズは羽毛を両手で抱えながら、アタシの放つ矢から逃げるように走り出したわ。
二日酔いで立ってるのもツラいはずなのに、その底力はどこから出てくるんだか。っていうかそんな力があるならタカハシ家との戦いで出し切ってほしかったわよ。
とても癪なんだけど、ワイズは地上に降りるまで逃げ切る事に成功したわ。




