476 軋む刃
ブレイブ・ブレイド同士は相殺が出来る。
シェイとの戦いで不覚をとりながら知った事だが、おかげでエアにブレイブ・ブレイドの主導権をむりやり奪われても冷静な対処が出来た。
エアは確かに素早いけれど、シェイのような瞬間移動じみた動きをできるわけじゃない。相殺した時の状況は必ずしも不利になるわけじゃない。
無論。一日に放てるブレイブ・ブレイドを使い切ってしまったので決定打に欠けるが、最悪の状況は免れる。
むしろ期待すらある。
高攻撃力同士が正面から相殺されるんだ。瞬間の衝撃はとてつもないものになるだろう。そしてブレイブ・ブレイドをその手で持っているエアは、至近距離で衝撃を受ける事になる。
衝撃に翻弄されている隙を突けば、ボクたちは勝てる。
それ以上の最善も予想できる。
エアがむりやり操作を奪ったブレイブ・ブレイドは先に出した一発目。そうすぐに力が霧散するようなやわな必殺技じゃないけれど、少なからず消耗をしているはず。加えてムリに主導権を奪われた攻撃だ。力がより拡散している可能性も充分にある。
だとすれば、相殺を超えて打ち破る事だって考えられる。状況はボクたちの方が有利だ。
期待を込めたブレイブ・ブレイドが、エアに主導権を奪われたブレイブ・ブレイドと正面衝突をする。
鍔迫り合いのように互いを押し合って拮抗している向こうで、心底勝負を楽しんでいるような黄色い笑みを浮かべる。
「随分余裕そうじゃないかエア」
「余裕なんてないんだけどね。けどすっごく楽しい。全力で勝負を挑むのって、どうしてこうも生きてるって感じがするんだろうね」
「よかったな。だったらどんな結果になっても、満足できるんじゃないか」
例え敗北し、翼をもがれたとしても。
今は互角の押し合いをしているけれども、先に押されるのはエアの方だ。
「満足は出来るけど残念でもあるかな。この楽しい時間が、もうすぐ終わっちゃうんだからね」
「なっ!」
エアのブレイブ・ブレイドが、ボクのブレイブ・ブレイドを押し込みだしただと。バカなっ。
「なんでそんなに驚いちゃうかな? ひょっとして力尽くでブレイブ・ブレイドに言う事聞かせてるって思っちゃった?」
「力尽くじゃなかったらなんだって言うんだ」
「力の流れとかクセとかを掴んで乗りこなしてるんだよ。自然とコントロール出来れば、ウチの風を乗算させる事だって出来るんだから」
打ち破られようとしている。ボクのブレイブ・ブレイドが、エアのブレイブ・ブレイドに。デタラメすぎる。コレが、魔王エアの恐ろしさなのか。
ブレイブ・ブレイドが、僕の心が音を立てて打ち砕かれようとしている。
「一気に決めるよっ! フルパワー!」
エアが気合いを入れると。黄色い風を纏わせる。
止められない。止まらない。拮抗が打ち破られる。
押し潰すように迫り来る敗北へ、ビュっと一本の矢が割り込んだ。




