473 込み上げる怒りを刃に込めて
落ちた。シャインが。味方であり姉弟であるはずのエアの手で、雲よりも高い塔から。いくらバケモノ染みた耐久力をしていたシャインでも、この高さから落ちれば助かりようがない。
「どういうつもりだ、エア。どうしてシャインの落っことした」
ボクは剣を握っている手にギチギチと力を込めながら、滞空するエアを睨み付ける。
「シャイン役目はウチがアクアを倒すまでの時間稼ぎだったんだよね。で無事にアクアを倒せたから、もう用済みってわけ。だからポイした」
些細な事と言わんばかりの平静な態度。
「お前は、そんな理由で姉弟を切り捨てたのか」
「んー、他に理由っているかな?」
わからないとばかりに腕を組み、首を傾げるエア。
タカハシ家はどこまで命を、尊厳を、想いを軽く見下しているんだ。
人は誰だって誰かと想いを担ぎ合いながら生きているんだ。人が一人死んだら、親しいかった全ての人が穿たれるような喪失感に襲われるんだ。
一人の死っていうのはクレーターのように大きく破滅的な衝撃があるんだ。
親しければ親しいほど、修復できないほどに心が壊れてしまうんだ。
ソレを、ソレをぉぉぉぉ。
「戦る気になるのは歓迎だけど、どうしてそうまで怒るかな? ウチとシャインの二人といっぺんに戦って勝つ見込みなんてなかったと思うけど」
「そんな事は問題じゃない。お前らタカハシ家が、人の想いを無造作に踏み潰している事が許せないんだ」
ありったけの勇者の力を剣に込め、諸悪の根源を見据える。
必死に生きようとした命が潰えてしまうのがどれだけ無念な事か想像もつかない。ジャーレフだってどこまでも希望と己の活躍を疑わなかった。
一緒に上を目指せたはずが途切れてしまった。紡ぐはずの様々な将来がなくなってしまった。
互いにこの戦いを生き延びれたら、啀み合いながらも互いを高め合う友になれたかもしれない。
数年後酒を飲み交わしながら政治の事、家族の事、上手くいかなかった事なんかを話しながら背中を叩き合えたかもしれない。
子供が出来て成長した暁には、継承権を誰に渡せばいいかを相談しあえたかもしれない。
幾千幾億と湧き出るかもしれないが、空虚な幻になってしまった。
「その許せないって想いが剣に込められてるんだね。ヤバいくらいに力を感じる。ブレイブ・ブレイドかな」
「気づいたところでもう止められない。妨害はボクの仲間達が許さない」
勇者の力を溜めだした段階から、ワイズもクミンもエアの動向を見張っている。
「そんな野暮な真似はしないって。ジャスと勝負するなら、真正面からブレイブ・ブレイドとやり合わなくっちゃもったいなじゃん。それこそシャインがいたら横槍入れられてたよ」
エアが退場させておいてよかったと言わんばかりの安堵を漏らす。
また命を軽んじる発言を。上等だ。その軽率な思考、ブレイブ・ブレイドで叩き直してやる。




