472 ツープラトンは突然に
エアは黄色い翼を羽ばたかせると、アタシが放つ矢を避けながら青空を飛び回る。
捉えられない。もっと速く。もっと動きを誘導して。もっと狙いを細やかに。もっと緩急をつけて惑わして。もっと。もっと。
「凄いや。ドンドン集中力が研ぎ澄まされてる。危なっ」
驚きながらも余裕の笑みを崩さないエア。その遊んでるような様、いつまでも続かせない。
自由に飛ぶにも限界がある。だから読む。エアの進行方向を、速度を、避ける方向を。エアの移動先を射抜き続けて、どこにも逃げれなくして、仕留める。
「急に腕がよくなったんじゃないかな。このヒヤヒヤ感はエフィーに狙われて以来かも。そんなに時間も経ってないのに強くなったね」
「アンタに褒められる筋合いはないわ。黙って死ね」
エアの急な回避行動が多くなり、矢の包囲網に完全に閉じ込めた。
「これは射貫かれちゃうね。ウチが普通の鳥だったら、だけど!」
逃げ場を失ったエアだったけど、翼を羽ばたかせる事で突風を起こして、迫りゆく矢を力業で吹き飛ばす。
しゃらくさい。だったら防御される事も視野に入れて組み立てればいいだけでしょ。
「エアにばかり愛を注がないでくれたまえよ。エリスにはミーがいるだろう」
「させないよ。癪だけど。ひじょぉぉぉぉぉに癪だけど。ワシがシャインの相手をしてあげる」
駆け寄ってきたシャインを、クミンが大剣を振り下ろす事で制止する。無論当てるつもりだった一撃。けれども避けられた事で床をギンと鳴らした。
シャインがクミンを見つめているところに火炎が迫りゆく。盾を思いっきり振り、風圧だけで炎を霧散する。
「少しは微動だにしやがれっての。今エリスの邪魔はさせねぇぞ」
「お前こそミーとクミンの逢い引きを邪魔しないでくれたまえ。うっとしいのだよ。お前もだ」
シャインは盾を頭上に構える事で、ジャスのジャンプ斬りを防ぐ。そしてそのまま力任せに吹き飛ばした。
「ぐっ、ぐあぁ!」
「はぁぁぁあっ!」
クミンが裂帛の気合いで大剣を振るい、シャインを引き留める。
「おっと。熱烈な大振りもクミンからなら大歓迎さ」
バカの動きも気になるけど、きっとクミン達が押さえてくれる。その間に、あの鳥だけでも。
「集中できるんだ。けどオチオチ戦ってられないよね。そんな状況でウチとサシで戦り合え得る」
「そんな事で苦笑してんじゃないわよ。今アンタはアタシに狙われてんの。もっと危機感もちなさい」
空中で見下ろしていたエアに攻撃を再開する。今度は地上スレスレの低さで飛び回っている。
何か狙いがあるのかも知れないけど関係ない。その前に射止める。
「なっ!」
弧を描くように逃げるエアを追って矢を放っていると、障害物に身を潜められてしまう。
「なにっ! うおぉぉぉぉおっ!」
突然射線に巻き込まれた障害物は、防御すらままならず矢の雨を浴びる。
あの鳥、シャインを盾にしやがった。
シャインの影から急接近するエアは、よろめくシャインの両肩をかぎ爪で掴んで大空へと舞い上がる。
「シャインを、攫った?」
「魔王エアは何をする気だ」
「猛烈なアプローチは嬉しいがエア、少々はっちゃけすぎではないかい」
ジャス達の疑問とバカのバカを無視してエアは飛ぶ。そして方向転換をし、アタシ達に向かってきた。
「いくよシャイン。ウチらのツープラトン!」
「待ちたまえエア! まさかこんなところでアレをやる気ではないだろうな! さすが冗談ではすまなく……」
エアの声が弾み、シャインが慌てふためきながら説得をしようとしている。
よくわからないけど、碌でもない事を仕出かしそうな予感に身構えた。
「いくよぉぉぉぉお! シャイントルネード!」
「のぉぉぉぉぉぉおっ!」
エアは高速回転しながら突っ込んでくると、足を前に出して回転するシャインを発射した。
回転しながら超高速で襲いかかるシャインを避けると、シャインは床に叩きつけられながらバウンドし、大空への塔の外へと弾かれる。
「あっ……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」
シャインはこちらに手のひらを伸ばし、絶叫しながら落ちてゆく。大音量の悲鳴がすぐに小さくなって消える。
……は?




