468 立ち上がる悪夢
よし、変態馬野郎は倒した。これでアクアを助けにいける。
ジャス達と一緒に青空を見上げる。アクアの放つ水魔法を避けながら、エアが縦横無尽に飛び交う風魔法を放っていた。
そして空中には複数、流れる風が密集しているスポットが浮いていた。
エアが散らした黄色い羽がスポットに吸い込まれると、暴れる風の勢いに乗って矢のように発射される。まっすぐに、カーブを描くように、狙いを拡散させながら。
アクアは四方から襲い来る風と黄色い羽を、水を纏ったトライデントを振り回しながら防御と回避をエアから視線を切らさないように行っていた。
一見すると五分五分の戦いをしてるように見えるけど、空を飛べるエアの方が勝ってる。
エアは完全に回避してるけど、アクアは黄色い羽を何度も掠めていた。
風のスポットから発射される羽がランダムに拡散されているせいで、アクアは攻撃を予測しきれないんだ。
大丈夫だよアクア。今アタシがエアを攪乱してあげるから。
速さを重視する為に矢に風を纏わせて、弓を引く。
「みんなしてエアを見つめないでくれたまえよ。嫉妬してしまうじゃないか」
「なぁ!」
いざエアを射貫こうってタイミングで、あり得ないはずのキモ甘ったるい声。反射的に飛び退きながら振り返ると、深々と傷を負ったシャインが後ろからクミンの肩に手をかけている。
ジャスとワイズもアタシと同様に、驚きながら距離をとっている。肩を掴まれたクミンだけが、振り向きながら目を見開いている。
「なんで、生きてんのさ」
負ってる。今なお致命傷を。なのになんでシャインは平然としてんのよ。
「クミンの大剣による一撃は凄まじいね。ミーへの愛の深さを感じられたよ」
うっとりしながら傷を撫でるシャイン。斬られた深さからは致命的な殺意しか感じられない。なのに生きている。
「もちろんエリスの愛も受け止めているよ。凄まじい愛の数に押し倒されそうなぐらいさ」
そりゃアタシだってしこたま射貫いたわよ。今だって手足に矢が突き刺さったままじゃない。どうなってんのよシャインの身体は。
欠片も減らない生命力を目の当たりにして、アクアの言葉が蘇ってきた。
シャインの事、殺せるなら殺しちゃってよ。死ぬビジョン、浮かばないの。
死なない変態ってふざけたワードが、目の前で具現化しやがった。こんなのどう殺せっていうのよ。
「だが勇者、君が犯した罪は到底許されない」
女達にかけた甘い言葉を急速冷凍させながら、シャインの冷めた目つきがジャスを捉えた。手にはいつの間にかランスが握られている。
「邪魔だから早々に消えろ」
いうが早いかシャインがランスを投擲する。驚愕から復帰できないままでいたジャスに、殺意の塊が高速で迫る。ジャスもアタシ達も、誰も反応できない。
「させない。レー○ートライデント!」
ただ遠くでエアと戦っていたアクアだけが反応して、手に持っていたトライデントを投げ放った。ジャスに迫るランスを弾き、窮地を救う。
助かった。けど、代わりに。
「隙ありだよアクア」
アクアは丸腰になってしまった。エアが急旋回してアクアへと迫る。
「させないよ。はあぁぁぁぁあ!」
急いでトライデントを精製し、上段突きを放つ。けれど急いで作った不格好な攻撃は、エアに悠々と避けられてしまう。
「甘いね。下だよ」
「きゃっ、あぁぁぁぁあっ!」
「やぁっと捕まえた。お空の旅にご招待だよ」
エアは人間形態に戻りながらアクアの足下に滑り込むと、足を掴んで振り回してから上空へと放り投げる。
再び黄色い翼を広げたエアは、錐揉みしていたアクアの両肩を両足のかぎ爪で掴み、更に空高くへと攫って行ってしまった。
「アクアーっ!」




