467 呆気ない幕切れ
「その拮抗状態じゃ矢は防げないんじゃない」
エリスは素手で大剣を受け止めている方へ回り込むと、矢を連射する。狙う箇所をバラけさせ、着実に手傷を負わせる手段だ。
「恋の駆け引きをしている途中に割り込むなんて行儀の悪い子猫ちゃんだ。ミーの気を惹きたくてしょうがないんだね」
シャインは素手で大剣を押し返すと、盾を割り込ませて矢を全て弾く。
「気が引けるの間違いだろう!」
押し返された大剣の勢いにむりやり歯向かって、シャインの盾へ強引に叩きつける。
「はっはー。レディ達は二人がかりでミーを満足させようとしてくれているんだね。だったら受け止めなければ男ではあるまい」
涼しい顔をし、余計な口説き文句を宣いながら女性陣に油をしこたま注ぎ込むシャイン。エリスが無言の殺意を込めながら、大剣を防いでいる盾に矢の雨を注ぎ続ける。
シャインは二人に集中して、ボクを視界に捉えていない。今なら。
盾を構えている反対側へ音を立てずに回り込み、高速の突きを放つ。
気づいていない。刺せる。
「外野はすっこんでろ」
「なっ」
妙に甘い言葉から一転、シャインが冷め切った一言を盾と共に放つ。
ボクの突きをしゃがみながら躱し、振り返る勢いでボクの横腹に盾が叩きつけられた。
「がっ!」
鈍い衝撃が腹の中に響く。盾を振り抜かれ床へ叩きつけられた。腹一杯に鉄の臭いが充満し、血を吐き出した。
「ジャス」
ぐぅ、どういう事だ。どうしてシャインはボクにだけ容赦の攻撃を浴びせてくるんだ。クミンとエリスには一切攻撃していないというのに。
腹に手をやり、回復魔法をかけながら見上げる。
クミンとエリスの猛攻にシャインは、意図的に防戦一方になっている。いやむしろ、女性達に攻められる事を喜んでいるようにも見える。
「アクアの言ってた事はこういうことかい」
「男を全力で排除して女には手加減するなんて、アクアがドン引きするはずだわ」
反吐が出ると言わんばかりに吐き捨てるクミンとエリス。加速する攻撃の手を、シャインは盾一枚で微笑みながら防ぎきる。
どうやらこのいきすぎた男女差別はシャインの性根にあるらしい。
舐めきった根性をしているけど隙がない。何か一撃、不意を突ければ戦況はひっくり返せるのに。
「いい加減その薄ら寒い笑みをやめな!」
クミンが空高く大剣を振り上げて、力一杯振り下ろす。
「いいねクミン。君の熱意がミーに伝わってく……」
「ボムズ」
シャインが盾を伸ばして防ごうとした瞬間、盾の内側から爆発が起きた。登ってきた階段の方を振り向くと、したり顔を青く染めながらワイズが杖を伸ばしていた。
「遅れての登場でアレだけどよぉ、いいところ奪っちまったかな……うっぷ」
ワイズ、やっぱり酒が抜けていないんだね。格好いいんだか悪いんだか。けどまたとない勝機を生み出してくれた。
シャインは爆発の衝撃で吹き飛び、盾を手放している。
「散々防いでくれたけど、盾がないならこっちのもんよ!」
「うおぉぉぉぉお!」
エリスが矢を乱れ撃ち、シャインの手や足、身体に次々と突き刺さる。堪らず悲鳴が空へと響く。
「ジャス、決めるよ」
「任せろ」
クミンとボクは挟み撃ちの形をとりながら同時に、シャインの身体を深く切り裂いた。傷口から吹き出す赤が、致命傷を物語っている。
「があぁぁぁあっ!」
断末魔を耳に、案外呆気なかったなと思いながら空を仰いだ。
待たせたね。これでエフィーの仇討ちが始められるよ。




