464 ブレーンバスター
アクアの大胆な力業によってワイズを鳥かごから解放できた。
「手段が手荒すぎやしねぇか。伏せるのが遅れてたらオレが格子に叩きつけられてたぜ」
片手で頭を押さえながら、ツラそうな表情で文句を漏らす。フラフラと歩いてくるのを見るに、まだ酔いが響いているようだ。
「シャンと歩きな。踏み外すと真っ逆さまだよ」
「そいつは勘弁願いてぇぜ」
「ところでワイズ、ジャーレフ達は見なかったのか?」
ボクたちより先を進んでいた彼らが、ワイズに気づかないとは思えないんだけど。
「寝てたから知んねぇけどよぉ、エアを倒しゃぁついでに救えるって考えて眼にもくれずに進んだと思うぜ」
「あいつらならあり得そうね。っていうかワイズも気づいて起きなさいよ」
「オレは深刻な二日酔いなんだよ。あぁ、オレはもうダメだ。みんなオレに構わず先に行ってくれ」
「情けない事言ってないで進むよ。ほら、もう天井は見えてるんだから」
アクアがワイズの背中にトライデントを添えながら、進行方向を見上げる。
天井。階段の終着点。あの先に、ジャーレフ達が。
「みんな急ごう。間に合わなくなる前に」
ボクの号令でワイズ以外のみんなが走り出した。
「ホントに置いてく勢いじゃねぇかよ。随分と空の勇者にご執心な事だな」
ワイズは杖を突きながら年老いた老人みたいにボクたちを追っていた。
焦れったく感じるが、魔物の奇襲もなさそうなので先を急ぐ。
階段を登り切った先に待っていたのは凄まじい突風だった。
「うわぁぁぁあ! やめろぉぉぉぉお!」
雲ひとつない鮮やかな青空をバックに、エアとジャーレフの後ろ姿が目に飛び込んでくる。
「なっ、ジャーレフ!」
ジャーレフが頭を逆さにして、エアに担ぎ上げられている。
周囲には屈強なソル・トゥーレの戦士だった身体が、赤に塗れて転がっていた。
遠くには傍観していたのか、ただ突っ立っているだけのシャイン。
「あっ、いいタイミングで来たね勇者ジャス。丁度トドメを刺すところだったからそこで見ててよ」
振り向きざまに宣言された死刑宣告で、反射的に足が動いた。
「させるかっ!」
「遅いよ。ブレーンバスター!」
「がぁぁぁっ! ……」
手を伸ばすも距離が遠すぎた。
エアは背中から倒れ込みながら、ジャーレフの頭を堅い床へと叩きつける。
ジーレフの悲鳴が鈍い破壊音で掻き消え、喋らなくなる。
出合ってまだ一日も経っていないけど、ぶっきらぼうに生き様を教えてくれた。話し合う機会さえあれば絶対に親友になれた。互いに檄を飛ばしながらよりよい国を、イッコクを作っていけるはずだった。
また……守れなかった。
駆け出した足が止まり、握りこぶしが震え出す。
「まさかホントにプロレス技使うなんてね。ちょっと趣味が高じすぎだと思うよエア」
「遊ぶには丁度いい相手だったからね。片っ端から技をかけさせてもらったよ。コブラツイストとか、アルゼンチンバックブリーカーとか」
アクアが乾いた笑みで呆れると、エアが立ち上がりながら満足げな笑顔を返した。
「一度青空に向かって人を投げてからキャッチして、床にポイしてみたかったんだよね」
「それマーシャルアーツの方のアルゼンチンじゃん」
人が死んでいる事なんて意に返さずに会話をするアクア。やっぱりどこか狂っている。けどそれ以上に、エアへの殺意が湧き上がってくる。
「どうして、どうしてお前らタカハシ家は人を簡単に殺せるんだっ! 命をなんだと思っている!」
「おかしいね。ウチも空の勇者たちも命を賭けて戦場で対峙したんだよ。なら生かすも殺すも、生きるも死ぬも全部自由じゃん」
エアは黄色く輝き、本来の姿になると黄色い翼と両手を目一杯に広げた。
「ウチはエア。エア・タカハシだよ。この戦場を一緒に飛び回ろうよ」
溢れる怒りに溺れながらも、エアは最初から全力で来る事を感じ取った。




