461 本来
「空の勇者さんたち薄情だね。狙われないとわかると全力で走り出すんだもん」
手で庇を作りながらのんきに見送るアクア。
「ちょっとアクア。なんで武装を解いてるのよ」
青筋をヒクヒクさせながら、エリスが襲い来るカラスを射貫いてゆく。
「だって私も狙われてないんだもん。今戦闘に参加する理由がないんだよね」
精製したはずのトライデントがものの見事になくなっていた。
まさか、この状況でアクアは戦線離脱するっていうのか。
「エアも大したもんだよね。私を襲ったら魔物が瞬殺されちゃうのがわかってるから、あえて襲わせないようにしたんだね」
「待ってくれアクア。今は一刻を争う事態なんだ。ここは目をつぶって手を貸してくれ」
時間制限がないのならアクアの矜持にいくらでも付き合える。けれど今っ、今だけはその矜持を翻してくれ。
「ジャス。本来なら私はここにいないの。ジャス達との戦いでとっくに死んでるの。だからたとえどんなピンチに陥ったって、自分たちだけの力で切り抜けなきゃいけないんだよ。死んだら何も出来ないから」
「本来いないって、今ここにいるじゃないか」
「信頼できる仲間を頼るのは間違いじゃないよ。けど状況に流されてただ甘えるのは違うと思うの。この戦いはね。ジャス自身が強くなれないと意味がないんだから」
くっ、仲間になったかと思えば呆気なく突き放すじゃないか。
腹いせとばかりに剣を振るい、カラスの群れを全滅させた。ジャーレフの姿は見えなくなってしまったが、まだ足音は聞こえている。
まだ急げば追いつけるはずだ。
檄を飛ばしてから再び登り出す。カラスやライチョウの群れに襲われるも、クミンとエリスと三人で駆け抜けながら対処をした。足を止めたら止めただけ、ジャーレフが先を進んでしまうから。
夕焼け色した内装はやがて星が輝く夜空の色と変わり、襲いかかる魔物もフクロウやトビといった夜行性の鳥に種類を変えていった。
フクロウの催眠音波に苦戦を強いられ、足を止められては失った時間に焦る。
焦るほどに、何もしないアクアに苛立ちが募ってゆく。
「こんな状況だっていうのに徹底してるじゃないかいアクア。ワイズが死んでもいいのかい」
「その時はジャス達の実力が足らなかっただけだよ。だってエアは、私が戦闘に参加しないのを踏まえて競争を持ちかけたんだから」
だから、エアのルールに則ってアクアは手伝わないっていうのか。ワイズを、ジャーレフを、ボクたちを見捨てるっていうのか。
「ほんっと厳しいわねアクアは。っで、この戦いを乗り越えたらアタシ達は強くなれるわけ?」
エリスの矢で射貫くような鋭い問いかけに、アクアは笑みをこぼして言い放つ。
「もちろん。だから信じさせてよ、エリス達が自分たちの力だけでワイズを救い出せるのをさ」
「だったら、期待に答えなくっちゃね!」
気持ちが高揚したのかエリスは、力強く応えながら魔物達をより鋭く射貫いていった。
わからない。どうしてそうまでエリスはアクアを信用できるのか。
ボクの方はマリーを殺した残虐なアクアが、脳裏にチラついて離れないっていうのに。
許したはずのアクアを、許せなくなってきている。




