460 ハンデ
宙に浮いている踏み板が、緩やかな螺旋状に並んでいるだけの階段。一段の高さが妙に低く、縦横に幅広く作られている。
駆けるように登っていける反面、頂上まだ辿り着くには時間がかかりそうだ。何より踏み板だけというのが見るからに心許ない。足をかけた瞬間に踏み抜いてしまうんじゃないだろうか。そしたら地上まで真っ逆さまだろう。
とはいえ怖じ気づいていても仕方ない。さっさと登ってしまおう。
一歩目を踏み出そうとしたら、肩を掴まれ後ろに追いやられてしまった。
「先陣を切るのは空の勇者であるオイラ達の役目だ。ジャス達は後から着いてくるといい」
ジャーレフが力強く一歩目を踏み込むと、振り向きざまに鼻を鳴らした。譲れないプライドがあるんだろう。
いいさ、プライドぐらい譲っても。その程度で動きをコントロール出来るのなら安いものだ。ボクは、誰一人犠牲者なくこの戦いを勝利したいのだから。
ジャーレフ達のパーティを先頭に、ゾロゾロと階段を駆け上っていく。七人ぐらいで横に並んでも余裕あるぐらい幅が広いので、隊列が乱れにくいのはありがたい。
踏み板も見た目に反して頑丈で、踏み込めばシッカリと感触が返ってくるのもありがたかった。
みんなしてひたすら駆けるように登っていくと、壁という壁から木の枝が伸び、緑色をした葉っぱの天井が見えてきた。
「むっ、塞がれている?」
「いや、階段が伸びる先は通れるように充分なスペースが空いている。このまま急ごう」
「言われるまでもなくオイラもそう思っていたところだ」
意地っ張りなジャーレフの言動を微笑ましく思いながら、葉っぱの天井を越えていく。
抜けると周囲の色が青空からオレンジへと変わっていた。
「こいつは、夕焼け空かい」
「へぇ、エアはとことん空をモチーフにお城を作ったんだね」
クミンが呟き、アクアが納得する。
とことん趣味に走った魔王城だ。今のところ魔物の襲撃もないし、本当にただ縦に長いだけの城なんだろうか。
疑問を浮かべていたら、木の葉がガサガサと音を立て始めた。見下ろすと、黒いカラスのような魔物が複数体飛び出してきて、ボクたちに襲いかかってくる。
「やっぱそんなに楽させてもらえないよね」
エリスが反射的に矢を放ち三羽ほど仕留めるも、数が多く勢いを抑えきれない。
「みんな備えろ。来るぞっ!」
叫びながら剣を構える。アクアがトライデントを精製し、クミンも大剣を構えた。ジャーレフ達も各々の得物を手に、腰を落として備えた。
まっすぐ特攻を仕掛けてくるカラスの群れを、接近した順に斬り捨てていく。クミンは豪快に複数匹をまとめながら薙ぎ払い、エリスが回避をしながら射落としてゆく。
第一陣の特攻をどうにかやり過ごす。数を減らしたとは言え、まだまだ群れを成して飛ぶカラス。壁沿いに旋回しながら、再び迫ってくる。
「突っ込む事しか能がないのかい。返り討ちにしてやるよ」
軽く捻ってやるといわんばかりに言い捨て、襲撃に備えるクミン。まだまだ余裕そうだ。
いくら群れているとはいえ、脅威には到底なりそうにない。けど、何か違和感があった。
二度目の襲撃も、ボクたちは難なく対処をした。
「むっ、オイラ達は襲われないな。やはり鳥神様のご加護は健在なようだ」
なんだって?
ジャーレフ達の周囲は異様に綺麗で、何事も起こっていないように見える。対してボクたちの周囲は、千切れた黒い羽と飛び散った返り血で汚れている。
「こうなっては致し方あるまい。魔物に襲われてしまうジャスたちに付き合っていては陽が暮れるというもの。やはりオイラ達が先に登って悪しき者を退治すべきなのだろう。みんないくぞ!」
ジャーレフがかけ声を上げ、ボクたちを置いて駆け上っていく。
「ちょっ、ジャーレフ待つん……くっ!」
止める為に声をかけようとしたところを、カラスの襲撃に邪魔される。
魔王エアめ、こんな露骨に対応を分けてくるとは。
歯がみしながら、ジャーレフ達の背中を見送るしかなかった。




