459 空を目指して
ワイズが、魔王エアに連れ去られてしまった。幼く平和な頃を共に過ごし、勇者になってからも隣で支えてくれた唯一無二の戦友が。
だというのに、あまり焦っていないボクがいる。
おかしな話、敵を信用できてしまっている。突きつけられた競争に敗北したり、時間制限を超えない限り安全は確保されるだろうと。
「退路は完全に断たれてしまったけどね」
もうワイズもエアも空へ消えてしまった。もう覚悟を決めて進むだけだ。彼らを守りながら。
覚悟を決めながらジャーレフに視線を送る。自信に満ちた頷きが返ってきた。
「仲間の魔法使いの事はオイラ達に任せるといい、と言ってもジャス達は登るのであろう」
「腐れ縁とは言え付き合いも長いからね、見捨てられないよ」
「ちょっとだらしないところもあるけど、アタシにとって偉大な先人だからね」
クミンとエリスが渋々といった雰囲気を醸しつつも、ワイズの救出に意欲を示す。アクアだけはノーコメントで魔王城を見上げていた。
「頼りになる仲間だから。そして苦楽を共に過ごした親友だからね。何が何でもボクたちで助け出す。だから、共同戦線を組まないか」
仲間を助けたいけどボクたちじゃ力が足りないから助けてくれ、とジャーレフ達からは見えるはずだ。
提案を受け入れる事でボクたちは軟弱者になり、ジャーレフ達は器のでかさを示せる事になる。乗ってきてくれるはずだ。そうすれば守りながらじっくりと進む事が出来る。
「頭を下げてそこまで頼み込むなら仕方あるまい。忸怩たる思いで頼んできたのだ、突っぱねてしまっては勇者の名折れとなろう」
すごくマウントを取りながら差し出された手。ボクは堅く握る事で交渉を成立させた。
ロンギングの精鋭達に馬車の番を頼み、ボクたちはジャーレフ達と共に大空への塔へと足を踏み入れた。
視界一面に映った青空の色。昼間の晴天を切り取ったような室内には、幅の広い螺旋階段がひたすら頂上へ伸びていた。
「冗談でしょ。こんな長くて危険な階段をひたすら登れっていうの」
「手すりどころか柵すらないなんてね。足を踏み外したら真っ逆さまだね」
シンプルかつ大胆な魔王城を作るじゃないか。まさか階段以外何もない、ただひたすら雲の向こうまで登る魔王城を用意するなんてね。
高さはそれだけで恐怖になる。おそらく妨害も加わる事だろう。心が折れたら足が竦んでしまうはずだ。
登る前から、空という凶器を思い知らされてしまったよ。




